育て達人第153回 上船 雅義

高校生らを生き物の世界に誘う 「真夏の広告塔」を務め達成感

農学部 生物資源学科 上船雅義 准教授(応用昆虫学)

この夏、オープンキャンパスの農学部模擬講義、科学教室「ひらめき☆ときめきサイエンス」に登場し、高校生らを生き物の世界に誘いました。「真夏の広告塔」の役割を終え、表情は達成感に満ちていました。

オープンキャンパスの手応えはいかがでしたか。

オープンキャンパスで模擬講義をする上船准教授=天白キャンパス共通講義棟北で

オープンキャンパスで模擬講義をする上船准教授=天白キャンパス共通講義棟北で

55分と短い中で、「かおりを介した生き物の関係~基礎から応用まで~」をテーマとして面白い内容をできるだけ幅広く伝えようとしました。「面白く、その先の内容も知りたくなった」という感想もいただきました。模擬講義後に、父母の方からも質問を受け、うれしい手応えでした。

ひらめき☆ときめきサイエンスの感想も。

初めてであるうえ実験などの準備が大変なこともあり、精いっぱいやり遂げた感じです。アンケートでは、面白くなかったという受講生がおらず、「寄生蜂が卵を産み付けるところが見られて面白かった」「実験がどれも興味深かった」と感想が書いてあり、安心しました。

「植物同士の会話」というくだりが興味を引きました。

私が扱っている研究では、昆虫の誘引や昆虫の忌避、植物の被害減少など目に見える現象を多く取り扱えます。このため、植物生理など目に見えない内容は簡単に紹介して、害虫の被害など目に見える部分で研究内容を説明しました。植物同士の会話はおとぎ話だと思ってしまいますが、現実の世界で起こっているので興味を引かれるのだと思います。

ご自身の研究を紹介してください。昆虫の飼育や生態研究は天白キャンパスで行っているのですか。

私の研究テーマの一つは、害虫防除です。化学農薬を使わずに、天敵昆虫によって害虫を減らすことを目指しています。畑に天敵昆虫を放して害虫防除を行う研究もありますが、植物の放出する香りを用いて畑周辺に生息している天敵昆虫を誘引し害虫防除する技術や、害虫がいないときでも天敵昆虫に餌を与え畑にとどまらせる技術を研究しています。また、ハーブなどの植物で害虫が忌避するようにできないかも研究しています。 もう一つは、昆虫や植物の生態学的研究です。昆虫の場合は、寄生蜂の嗅覚情報と視覚情報の利用様式や捕食性カメムシの生き残り戦略 、テントウムシの多回交尾の理由などについて行動生態学的なアプローチで研究を進めています。植物の場合は、昆虫に食べられないコケ植物に着目し、コケ植物の害虫に対する防衛能力を明らかにしてきています。 昆虫の飼育や実験は天白キャンパスで行っています。害虫防除の試験もしたいので、附属農場などで研究できたらと思っています。

研究者になったきっかけは。

高校生の時の生物担当の阿部正喜先生の影響は大です。阿部先生は九州大学大学院出身で博士号をもち、ハナバチを研究していました 。現在は、東海大学 でハチだけでなく博物館学などを研究し教えています 。阿部先生の影響で昆虫が研究対象の一つになったなと思います。教室で飼育するための魚とりに連れて行ってもらい、授業以外でも自然のことを体験させてもらいました。

研究者としての足取りは。

鹿児島県農業試験場で実験補助のアルバイトをした大学3年生の時、天敵を使用した害虫防除(生物的防除)と出合い、研究テーマに決め、大学院は九州大学の生物的防除研究施設 へ進学しました。京都大学の高林純示教授に研究員として誘われて京大生態学研究センター(大津市)で研究することになり、生態学視点からもアプローチすることで基礎研究と応用研究の垣根がなくなりました。また、昆虫側の視点だけでなく植物側の視点も生まれました。JST(国立研究開発法人科学技術振興機構)の若手研究者ベンチャー創出推進事業に採択され、起業のためのビジネス研究を行うことで、ビジネスの観点からも考えることができるようになり、さらに視野が広がりました。

学生に対する指導指針、望むことは何ですか。

学生に望むことは、やる気です。このため、卒業研究の指導方法は、私が1から10までやるべきことを指示はしません。研究テーマは自身のやりたいテーマになるべく近づけ、実験方法などは一緒に話し合って決めていきます。学生がやりたい研究ができれば、やる気につながり、自分自身で考えて研究を進めていきます。この過程が社会人になって役立つと思っています。

座右の銘や趣味、愛読書などをお聞かせください。

座右の銘は「向上心をもて」 です。小学生のとき国語で習った夏目漱石の「こころ」に書いてあった「(精神的に)向上心のないものはばかだ」という言葉に子どもながらに刺激を受けました。漱石が読者に伝えたいことは別かと思いますが、私は人生において常に向上しなくてはいけないとそのとき思いました。高林先生 に「できないと思った瞬間にできなくなる」と言われた言葉も心に残っています。講義中に、受け売りでこの言葉を使っています。趣味はコーヒーを自分でいれて味わうことです。 おいしい料理を食べることも好きです。愛読書は藤沢周平の時代小説で、特に好きなのは「よろずや平四郎活人剣」と「用心棒日月抄」シリーズです。

最後に、これだけは言っておきたいということがあればどうぞ。

大学は受け身で学ぶところではありません。このため、大学生活は、楽をすればどんどん楽をすることができるかもしれません。たった4年間。だから、自らどんどん学んでください。この行動は、就職とその後の人生の幸せにつながると思います。

研究室で昆虫に囲まれる上船准教授=天白キャンパス9号館で

研究室で昆虫に囲まれる上船准教授=天白キャンパス9号館で

上船 雅義(うえふね・まさよし)

熊本県生まれ。1999年、鹿児島大学農学部を卒業。2004年、九州大学大学院生物資源環境科学府博士課程単位取得退学。2004~2014年、京都大学生態学研究センターに研究員として勤務。2014年から現職。2009年、九州大学で博士(農学)を取得。日本応用動物昆虫学会、日本昆虫学会所属。著書に「生きものたちをつなぐ『かおり』」 など。

  • 情報工学部始動
  • 社会連携センターPLAT
  • MS-26 学びのコミュニティ