育て達人第159回 米澤 貴紀
文献と実地調査で神社仏閣を建築史的に「解剖」する
理工学部建築学科 米澤 貴紀助教(日本建築史)
理工学部建築学科で建築史を教えて間もなく2年。天白キャンパス共通講義棟Ⅱの研究室の書棚には歴史や神道、仏教関係の本がずらりと並び、日本史学科と見まがうばかり。建築史研究の醍醐味(だいごみ)を中心に語ってもらいました。
本学との縁は。2年を過ごして、どういう心境ですか。
好きな言葉を色紙に書いた米澤貴紀助教
名城大学との個人的な縁はほとんどありませんでしたが、出身大学の先輩方がいらしたので、着任前にも何度か研究会や打ち合わせなどで来たことがありました。そのような自分ですが、すんなりと受け入れてもらえたように感じていて、もう何年もいるような、居心地の良さです。
どのようなことを教えていますか。
科目としては建築を歴史的に見る基礎を学ぶ「建築史概論」、日本の建物の歴史を学ぶ「日本建築史」、アジアの歴史的な建物を学ぶ「アジア建築史」を担当しています。より専門的な内容はゼミナールと卒業研究で行います。あとは、1年生の製図の科目も担当しています。
建築史研究の醍醐味を語ってください。
なぜその建物があるのか、なぜその建物がよいのか、といった根本的な問いに迫れるところです。そこから建築が生み出した文化や、社会とのつながりなどさまざまなことが明らかになり、建築を取り巻く一つの世界、物語を見いだせます。これは知的好奇心を刺激するものですし、現代の建築を考える時にも役立ちます。
建築史を専攻するきっかけは。
鎌倉の近くに生まれ育ち、子どものころからお寺や神社で遊んでいて、寺社建築にもともと親近感がありました。大学3年のとき、比較建築史や文化財建造物の保存修復技術の研究で著名な中川武先生(早稲田大学名誉教授、博物館明治村館長)の授業を聞いて歴史に興味をもちました。父が設計事務所を経営し、私も建築設計志望でしたが、「建物と、それを取り巻く文化を研究したい」と思うようになりました。
転機ですね。
中川先生の授業の曼荼羅(まんだら)の話が刺激的でした。「曼荼羅には仏教的な理念が空間的に表現されていて、現実に立っている寺社建物より濃い空間がある」という解説です。強いイメージ性をかき立てられる話でした。
著書の『神社の解剖図鑑』では、全国各地の有名な神社の見方がイラストをふんだんに使って分かりやすく説かれています。
お参りに行って、神社のどこを見るか、何に注目するかという視点をもつきっかけになってほしいと思います。
2017年にユネスコの世界遺産「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」に登録された宗像大社(福岡県)をはじめ、とにかくいろいろな神社に足跡を残したことが読んで取れます。好きな神社は。
大学時代も、長期の休みになると神社仏閣を巡っていました。奈良県の石上神宮摂社出雲建雄神社拝殿は最近見た建物の中ではお気に入りです。近くでは愛知県西尾市の金蓮寺弥陀堂も好きです。
教育・研究で心がけていることは何ですか。
「自分でまずはやってみる」という姿勢です。学生さんにはまず興味を持ったことをやってみて、うまくいくか確かめてもらうように言っています。もちろん手助けはしますが、まずは自分でやってみて、うまくいったり失敗したり、という体験を積むことが大切だと考えています。無駄なことをしたくない、と思うかもしれませんが、この経験から養われる勘のようなものは、きっといろいろな場面で役に立つと思います。自身の研究でも手間をいとわずに取り組むようにしています。 また、自分のやったことをほかの人に向けて分かるように発信する、ということも大切だと思っており、教育・研究の両方で心がけていることの一つです。
学生にメッセージをください。
自分の大学時代を振り返って一番役に立っていることは、もちろん勉強もありますが、先生、先輩、友人、後輩といった人たちとの付き合いです。今でもいろいろなところで助けてもらっていますし、一緒に面白いことに取り組んだりしています。ぜひ、学生のみなさんにも良い人付き合いをつくってもらいたいです。いろいろな人たちとたくさん話をし、一緒に物事に取り組むことで刺激を得られるでしょうし、また、卒業後も長く続く、価値あるつながりになっていくと思います。
時節柄、新入生にもメッセージをください。
大学は自分でやりたいことができる場所です。まずは視野を広げ、興味を持って取り組めることを探してみてください。そして、自分から動くことが大切です。主体的に動くことが大学生活を充実させるコツだと思います。
好きな建築家を挙げてください。
伊東忠太(日本建築史学の開拓者、文化勲章受章者、1867~1954年)、ルイス・カーン(20世紀を代表するエストニア系アメリカ人建築家、都市計画家、1900~1974年)です。伊東は研究と実作の両方をこなし、さらに趣味も含めて自分の世界をつくり上げている点が面白いです。カーンは設計した建物、その考えや言説が美しく、建築を学び始めた頃から好きな建築家です。
好きな言葉、趣味、愛読書を教えてください。
好きな言葉は「柱の声を聞く」です。学生の頃、調査の時に先生からそのような言葉を聞き、以来自分の中でいつもある言葉です。こちらから建物の声を聞こうとすることでいろいろなことが分かってきます。この「声を聞く」ことで理解が深まるということは、図面に描かれた部材、文書に記された言葉、面と向かって話している人などあらゆるものに対して当てはまると考えています。 趣味は狛犬(こまいぬ)鑑賞、トレッキングです。 愛読書はいろいろありますが、折口信夫(民俗学者、1887~1953年)の『死者の書』は影響を受けた一冊です。
博物館明治村での実習
米澤 貴紀(よねざわ・たかのり)
神奈川県出身。早稲田大学理工学部建築学科卒、同大大学院理工学研究科修士課程、同博士後期課程単位取得退学。博士(工学)。早稲田大学助手、武蔵野大学非常勤講師、早稲田大学理工学研究所次席研究員等を経て2016年より現職。専門は日本建築史のほか、建築技術史、建築文化史。著書に『日本の名城解剖図鑑』など。