育て達人第172回 西尾 由里
特色あるFSPで教育効果を上げる 本学教育功労賞を受賞
外国語学部国際英語学科 西尾 由里教授(英語音声学)
ナゴヤドーム前キャンパスの外国語学部国際英語学科の教育の特色としてFSP(Future Skills Project)があります。企業や社会との接点を重視するフィールドワークの実践です。それを担当するチームに3月22日、2018年度の教育功労賞が贈られました。代表者の西尾由里教授に取り組みを伺いました。
教育功労賞の感想からお願いします。
好きな言葉を色紙に書いた西尾由里教授
2016年に外国語学部が開設されてから、1年生必修の基礎演習ⅠでのFSPの授業は、参加企業、基礎演習担当教員12人をはじめ事務職員など非常に多くの皆様の献身的な協力のもとに実施できています。これらの授業が教育的効果を上げていることに対して、大学全体として評価されたことは非常にうれしく思いました。
どんな内容ですか。
FSPは2つの企業から与えられるリアルな課題にチームで取り組み、チーム活動とプレゼンテーションを2回のサイクルで学び実践します。高校までの受け身の勉強から、正解のない課題を解決するという失敗または成功体験を通して、大学での主体的な学びを身につけ、大学生としての自覚を1年生の前期の段階で持つことができます。また、課題にチームで取り組む方法、資料の検索と収集の方法、課題解決のための調査方法、データ収集と分析、討論の仕方、さらに発表の仕方などに関する大学生として必須の基礎的なアカデミックスキルを習得します。波及効果として、企業や社会でのかかわりに興味を持つ学生が増え、さまざまなフィールドワークで貢献しています。
外国語学部が4年生までそろって、学部として完成年度を迎えた思いはいかがですか。
入学時点で英語力や学力の高い新入生が入学し、学部として4年生までがそろい、学部としての責任を痛感しています。また、2年生の多くの学生が留学することから、学年をまたぐ縦のつながりがとりにくい状況でしたが、専門ゼミナールが始まり、各ゼミとも3年生と4年生のつながりが密になっていることがわかります。
授業ではどのようなことを教えていますか。
基礎演習Ⅰの授業風景
「英語音声学」では、音声を理論的に理解し、発音や聞き取りに結び付けることを教えています。音声を表記するIPA(国際音声記号)を理解することや、母語話者の発音映像や、MRI(磁気共鳴画像装置)の映像を使い、また自分自身の発音を客観的に捉えられるようにしています。いままで感覚的に発音してきたものを、理論的、客観的に判断できることが重要だと考えています。
専門の3年生、4年生の「ゼミナール」では、英語の音声がどのように知覚され産出されているかのメカニズムを探るというテーマで研究しています。その一環として、小学生に対して「わくわく英語絵本の読み聞かせプロジェクト」を名古屋市東図書館や紀伊國屋書店プライムツリー赤池店(愛知県日進市)との共催で行っています。学生たちは、英語絵本を通して、子供たちが、どのように音声、文字、絵などを結び付けて習得していくか、その過程を観察したり、アンケートを取って分析したりと、研究手法を学んでいます。また、その活動を通し、社会の中で、子供たちの教育に役立つことができると感じています。
指導の力点、モットーは何ですか。
大学では、教員がテキストなど通し先人が明らかにしていることを教えますが、ただそれらを暗記するのではなく、それらの理由や問題点などを考えてほしいと思います。さまざまなことにアンテナを広げながらも、興味のあることを追求していってほしいと思います。また、統計などのデータや数値など客観的な根拠を見て解釈できるようになってもらいたいと思っています。
どんな研究をしてきましたか。
アメリカ留学後、子供たちに英語を教える機会があり、子供たちが英語の音を全くそのまま発音できることに驚き、どのように音を認識し、発音しているのかに興味を持ちました。そこで大学院に入り、音声学・言語習得を専門として学位を取りました。実際、英語の発音をするときに、舌の位置を前か後か、上か下に変えるだけで全く音が異なります。また、その仕組みを頭できちんと理解できていないと、大人の場合は英語音声を正確に発音できません。母語の日本語であれば、無意識に何の問題もなく発音できることが、外国語であれば、その仕組みを知らなければ正確に発音できないことが非常に面白いと思っています。逆に、仕組みが分かればかなり正確な発音になるということです。
日本語母語話者が/l・r/の音の発音がなぜできないかについてですが、乳幼児はすべての音を聞こえるが、6カ月ぐらいたつと/l・r/ など、日本語で区別する必要がない音は弁別しなくなるというように、人間の知覚は非常に選択的です。また、英語音声としては、間違いであっても、コミュニケーションにおいて、通じやすさにあまり影響を与えないものと与えるものがあるということなどです。たとえば、thatのthの音を/z/で代用して発音していても、通じますが、pen の/p/ の帯気が弱い場合は、ben に聞こえ、意味が通じなくなることがあります。さらに、アジア圏ではよくありますが、同じ英語を話していても、母語の違いから英語理解が非常に困難になったりします。このような事例は、学生たちも非常に興味を持ちますし、私自身も面白いと感じているところです。
学生時代にやっておけばよかったと思うことはありますか。
さまざまな本をたくさん読んでおけばよかったと思っています。また、数学と歴史をもっと勉強しておくべきだったと思います。
学生にメッセージをください。
名城大学の外国語学部では、多くの授業がALL Englishで行われ、グローバルプラザなど、常に英語を使う環境があり、教員もバイリンガルまたは英語母語話者です。設備も最新で、iPad やコンピューターを使うICT環境で授業を受講でき、環境・設備とも非常に充実しています。さらに、3~5カ月のセメスター留学、1年間長期留学などのフルサポートをはじめ、多くの援助があり、事務など万全の体制を整えています。外国語や英語ができるようになることはもちろんですが、それを使って自分がどうなりたいのかというビジョンをしっかり持つことで、充実した実り多い大学生活になると思います。皆さんの力を伸ばすチャンスは多く与えられていますので、ぜひ、そのチャンスを自分の力でつかんでもらいたいと思います。そのためには、自分自身の学習、生活、将来計画などを言語化し、時間軸で、明確な目標を立てる習慣を付けてください。そしてもちろん実行することです。
好きな言葉を色紙に書いてください。
Believe in yourself! (自分自身の可能性を信じること!)
趣味や気分転換法を教えてください。
わが家にはトイプードル(アンちゃんとモネちゃん)がいまして、毎朝の散歩がとても楽しみです。歩きながら、季節の花々や木々の移ろいを感じたり、仕事などの関する新たなアイディアが浮かんだりします。またジムでのエアロビクスやアクアビクスなどは気分転換になります。学会などもありますが、海外に出かけることも非常に刺激になります。
最近何十年かぶりにピアノレッスンを復活しましたが、うまく手が動かないことと、譜面が暗記できないため、これは気分転換というより、今はまだ結構ストレスかもしれません。(笑)
西尾 由里(にしお・ゆり)
広島県出身。アメリカ・南ミシシッピ大学留学、名古屋大学大学院国際開発研究科国際コミュニケーション専攻博士後期課程単位取得満期退学。2007年、博士(学術)。茨城大学教育センター准教授、岐阜薬科大学教授を経て2016年から現職。所属学会は全国英語教育学会、外国語教育メディア学会など。主な著書に「児童の英語音声知覚メカニズム L2学習過程において」(ひつじ書房)など。