育て達人第173回 山中 裕次

「部活動こそ探究活動」とウエイトリフティング部を指導

附属高校  山中 裕次教諭(数学)

附属高校は、生徒の問題解決能力や発信力を養う「探究活動」に力を入れています。それは部活指導にも当てはまり、ウエイトリフティング部顧問の山中裕次教諭は、部員同士で考え、教え合う指導方針をとり、「部活動こそ探究活動」と言い切ります。

教師を志望したきっかけから教えてください。

好きな言葉を色紙に書いた山中裕次教諭

好きな言葉を色紙に書いた山中裕次教諭

中学、高校の時は、将来先生になりたいとは思いませんでした。中学が荒れていて、毎日のように先生が体を張って生徒と向き合っていて、大変な仕事だというイメージでした。本当に先生になりたいと思ったのは大学4年生の時でした。教育実習が終わって決心しました。1992年で、まだバブル経済の余熱があり、友達もほとんどが民間企業に就職が決まっていました。僕もいくつか内定をもらっていましたが、本当にそれでいいのかと思い出してしまって…。結局、全部辞退して教員採用試験一つに絞りました。準備をしていなかったので、そこから猛勉強したのを覚えています。その選択は今思えば大正解でした。

理工学部数学科ですから、数学の先生を志望するわけですね。

中学校までは数学が大嫌いで、苦手でもありました。高校に入ってから心機一転して勉強し、得意になりました。教え方のうまい先生にも出会いました。塾のアルバイトでも数学を教えていました。どうしたら分かりやすく教えることができるだろうかと考えていました。うまく教えることができ、生徒から「よく分かった」と言ってもらえることに喜びを感じていました。そんな体験が、教師になることを後押ししましたね。

数学の魅力、指導法は。

数学は論理的で体系的な学問です。根拠が明確で、白黒がはっきりしています。分からなくなったら、どこへ立ち返ったらいいかを考えさせます。数学の難しい問題はいくらでもあります。また、世の中に出たら答えのない問題を考えます。なので、HOW TOよりも分からなくなったらどこに戻ればよいのかを考えられるほうが大切な気がします。難しいことに遭遇したときこそ原理原則、定義に立ち返れということですね。

数学は冷たい学問というイメージを持たれますが、数学史を読んでみると実に人間臭いところもあることが分かります。例えば、フランスの天才数学者ガロワ(1811~1832年)が恋愛関係のもつれで若くして決闘で死んだとか。先人たちのエピソードなど歴史的な側面、文化的な側面も伝えたいと意識しています。

愛知県内の私立高校で17年連続して志願者数ナンバーワンを続けている理由は何ですか。

一つは、名城大学の附属ということが魅力になっていると思います。公立高校を含め、他校から名城大学に合格するのは大変です。学校説明会等で最近特に言われますよ。名城大学で学びたいから、附属に入りたいと。

もう一つは、これまで積み重ねてきたものです。SSH(文部科学省指定スーパーサイエンスハイスクール)もSGH(文部科学省指定スーパーグローバルハイスクール)もそうですが、何より生徒を大切にしてきたことではないのでしょうか。先生と生徒の距離も近い気がします。温かいというか面倒見がいいというか。卒業してからもよく遊びに来ます。いつ来ても、変わらない学校がある、教えてもらった先生がいる。これは公立高校にはない、素晴らしいことです。生徒の姿を見ていると、自分の子供も入学させたいなと思いますよ。僕は、そこの学校の職員が自分の子供を入れたいと思えるような学校であるかどうかだと思います。

リピーターが多いとか。

生徒の弟、妹が入ってきます。いい学校だからでしょう。兄弟姉妹で附属高校出身ということが珍しくなくなりました。お父さんも附属卒業生という生徒もよくいます。1999年度に男女共学になったので、そのうち、お母さんも卒業生という生徒が出てきますよ。楽しみです。

ウエイトリフティング部について語ってください。

ウエイトリフティング部を指導する山中教諭

ウエイトリフティング部を指導する山中教諭

創部から約65年続く、附属高校の歴史とともに歩んできた伝統ある部です。僕が3代目の顧問です。ウエイトリフティング競技は、全国的に高校から始める子がほとんどです。最近は低年齢化が進んで、全国大会の上位は中学から始めた子が占めている状況です。でも、高校からスタートしてもチャンピオンになれます。僕はこれまで、3人の高校チャンピオンを育てましたが、皆高校に入ってから始めました。スポーツ推薦を取っていないから、いろいろな子が入ってきます。それが、面白い。中学では帰宅部、美術部、合唱部なんて子もいました。そんな子が全国大会で入賞したこともあります。人間の可能性っていうのは分からないものです。高校から始めても全国大会で表彰台に立てる夢のある競技ですよ。高校から新なことにチャレンジするにはもってこいの競技だと思います。

育成法は。

筋肉をつけたいから、弱い自分を鍛えたいから。そんな理由で入部してくる子もいます。理由は何でもいいんです。大切なのは、今からやるぞという新鮮な気持ち、決心なんです。やっているうちにウエイトリフティングの魅力にどんどんはまっていくという感じですかね。1年生の夏を越したら、やめる子なんてほとんどいません。体も少し大きくなり、挙げられるバーベルの記録が伸びてくると、面白くなります。人間、面白いなと思うと自分からどんどんやります。スポーツ指導者は、まずは面白いなと思うこところまでどう導くかですね。それと、選手である前に人として大切なことは、ガミガミと言いますよ。あいさつをしっかりせよとか、誠実であれとか、道具を大切にせよとか、ホウレンソウ(報告・連絡・相談)を徹底せよとか。そういうことは、うるさいかもしれません。でも、それをやるのが学校の部活動の役割だと信じています。

指導法に変化はありますか。

部を受け持ってしばらくは、自分も生徒と一緒に練習し、成年の部の大会にも出ていました。しかし、一緒に競技をしていたら、生徒のことをよく見られないと気づきました。生徒の動きをよく見ようと方針を改め、研修会に行ったり本を読んだりしてコーチングを勉強しました。当時は自分が学んだことを伝えたくて、ずいぶん細かいことも言っていたと思います。しかし、全国大会でメダルを取れる選手がなかなか出せませんでした。そこで、細かく教え過ぎず、生徒に自分で考えさせ、生徒同士で教え合うように改めたら、トップ選手が出るようになりました。附属高校はSSHやSGHで培った探究活動に力を入れていますが、部活動こそ探究活動だと僕は思います。発問し、ヒントは出すが、教え過ぎず。生徒たち自らがチームで解決できるように導くことが指導者の役割と考えています。

生徒にメッセージをください。

全校集会でよく言うフレーズですが、元気・根気・本気です。三つの「気」を大切にと強調しています。何より元気で。物事に根気よく取り組もう。目標を達成したければ本気でやろう。ウエイトリフティングに例えて「筋肉は一日にしてならず」とも言っています。

受験生にもメッセージをください。

高校に入ったら新しいことにチャレンジしたいと思っている子はぜひ来てください。君のやる気に応えられる環境がここにはあります。先生たちも元気いっぱいです。勉強・部活・学校行事。充実した3年間を送ることができますよ。

趣味は何ですか。

クラシック音楽鑑賞です。好きな作曲家はベートーベンです。何度も勇気をもらいましたね。クラシック音楽は理詰めで数学に似ていると思います。休みの日は、お気に入りのオーディオ設備で好きな作曲家の音楽を聞きながら、おいしいコーヒーを飲んで過ごすのが好きです。あと筋トレも趣味で、週3から5回はジムに通います。いつまでも、バーベルを挙げて生徒に手本を示したいので鍛え続けたいと思います。あと、自分のメタボ対策のためにも。

好きな言葉を色紙に書いてください。

「一隅を照らす」です。天台宗の開祖、最澄(767~822年)の言葉です。「それぞれの立場で誠実に一生懸命頑張る。一人の照らす力は小さいかもしれないが、たくさん集まれば大きな力となる」という意味に解釈しています。教師一人一人が、自分に関わる生徒に光を照らすことが教師の使命であると考え実践すれば、やがては学校全体が大きな光に照らされると考えています。

山中 裕次(やまなか・ゆうじ)

1969年、名古屋市南区生まれ。1993年、名城大学理工学部数学科卒業。同年、附属高校に数学教諭として着任するとともにウエイトリフティング部顧問に就任。2016年度から生徒指導部長。2007年度文部科学大臣優秀教員表彰。公益財団法人日本体育協会公認スポーツ指導者ウエイトリフティングコーチ。愛知ウエイトリフティング協会理事、愛知県高校体育連盟ウエイトリフティング専門部委員長を務める。

  • 情報工学部始動
  • 社会連携センターPLAT
  • MS-26 学びのコミュニティ