育て達人第174回 加藤 昌弘

楽しい雰囲気のゼミ室で広範なテーマの卒論を指導

人間学部人間学科 加藤 昌弘准教授(歴史学、文化研究)

ナゴヤドーム前キャンパス西館の加藤ゼミの部屋には、歴代の卒論のタイトルが掲げられています。先輩の卒論を読むこともできます。テーマは古今東西のさまざまな分野に及びます。それらを受け止めてきた卒論指導の現場をのぞきました。

どんなことを教えていますか?

ゼミ生の卒論テーマが書かれた紙の前で

ゼミ生の卒論テーマが書かれた紙の前で

ざっくりいうと、文化研究。これは映画とかマンガとかロック音楽とか、学生にも身近なポピュラーカルチャーやメディアの研究です。これをアイデンティティーの問題やイギリスの歴史や地域問題と関連させて講義します。自分の留学経験を生かして、留学前の事前指導も担当しています。

ポピュラーカルチャーは勉強の邪魔だとか、無意味な暇つぶしだと軽視されていて、学生たちも罪悪感を持っています。でも、本当は人間らしい生活にとって必要不可欠なものなんです。私たちは大衆文化によって、絶望的な状況下でも生きていく希望を持てたり、社会の理不尽さに怒り、抵抗することだってできるんです。

ゼミ生の卒論のタイトルを見ると、博学多識でないと指導が難しいと感じます。

机を囲んでじっくりと卒論指導をする加藤准教授

机を囲んでじっくりと卒論指導をする加藤准教授

そうなんですよ、心配になりますよね(笑)。私自身の経験や多趣味さが生かされている面もありますが、学生が熱意を持って取り組める対象なら、どんなものでも大丈夫です。ゼミ生の研究テーマはバラバラに見えますが、現代社会を考える材料としてはかなり共通点があるんです。一緒に「それ、いいよね〜」って盛り上がりつつ、ちゃんと方法論や理論も教えています。

私からは、常にマイノリティーの視点を持つようにアドバイスしています。ポピュラーカルチャー自体が、社会の中で下に見られてきた文化ですからね。社会の中の弱者や少数者の視点に立って考えることが、大事だと思います。

例えば、2017年度には「世界遺産における日本の多文化化-『長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産』とカナダの事例との比較」という卒論がありますね。

ゼミ室にはこんな物も置いてある

ゼミ室にはこんな物も置いてある

潜伏キリシタンは江戸時代の社会の少数者でした。しかも迫害を受けた。どうやって文化を使って理不尽さに抵抗したかという点が興味深いし、それを世界遺産として認めることには社会的意義があります。この論文、世界遺産に認定される前に書いたものです。信念を持って取り組んでくれたと思います。

先生がテーマを決めるという大学もあると聞きますが、ゼミ生はテーマをどう決めていますか。

図書館の授業参考図書

図書館の授業参考図書

ゼミの先輩と相談しながら学生が自分で決めて、私が許可します。どんなテーマにせよ、「他人ごと」ではなく「自分ごと」を研究することが大事です。卒論指導は、走っていく学生の横について声をかけながら伴走していくイメージです。一緒に考えて、一緒に論文を探して、ゴールを目指します。私がゼミ生に指導されている面もありますね(笑)。

研究者になったきっかけ、転機を教えてください。

大学院を修了して博士号を取ったときを思い出します。大学にも研究にも心底うんざりしていて、この先どうしようかと暗い気持ちでした。名古屋の実家に帰って、近所のスーパーの休憩コーナーにぼんやり座って、新聞折り込みの求人チラシを眺めていました。ちょうどそこに、京都でお世話になっていた先生から、専任の仕事があるけど応募する気はあるか?という電話がかかってきた。あの電話がなければ、今どこで何をしていたのかわかりません。

自身の研究について語ってください。

大学生の時にファンだった俳優ロバート・カーライルの影響で、スコットランドを研究することになりました。今はスコットランドのナショナリズムや、スコットランド人のナショナル・アイデンティティーの研究が専門です。スコットランドって、イギリスという国家のなかの一地域でしかないんですが、独立した国としての意識も強いんです。それはなぜなのか、学生のときにイギリスの映画や音楽、スポーツを楽しみながら、素朴に興味をひかれました。

スコットランドは、日本ではあまり知られているとは言えません。だから、日本語でなるべくたくさん論文や本やブログを書いて、先人たちが築き上げてきたスコットランドについての情報をどんどんアップデートしていくことが、私たちの世代の大事な仕事だろうと思っています。

例えば。

スコットランドといえば日本人にはタータンチェック、バグパイプ、スコッチウイスキーのイメージですが、ちょっと古い感じがします。日本にとってのサムライやゲイシャみたいな感じでしょうか。だから、映画やヒップホップなどのポピュラーカルチャーを研究して、従来のイメージを覆していけるように努めています。

学生時代にやっておけば良かったと思うことはありますか。

留学かな。私は留学したのが20代後半と遅かったので、もし学部生の時に短期でも留学していたら、その後の人生がどうなったんだろうと思います。留学チャンスが多い人間学部の学生がうらやましい。どんどん留学して、私を悔しがらせてほしいです。

7月27、28日のナゴヤドーム前キャンパスのオープンキャンパスを前に、人間学部の魅力と特色を紹介してください。

各分野のプロフェッショナルな先生がそろっていて、すごいなと思います。入学してから自分がどの分野に進むのかを決められるし、どの分野でも専門科目の授業から卒業論文のゼミまで一貫して勉強できます。幅広く学べるって大事で、視野を広げて思考できるゼネラリストは社会でも求められていますよね。留学プログラムも多彩で、自分自身に合った目的と内容のものを選べます。

受験生にメッセージをください。

名城大学を受験してください。併願でもいいので、できれば人間学部も受験してください! いや、できれば、とか、謙遜しすぎました(笑)。必ず、絶対に、何があっても、すべり止めでもいいので、人間学部を受験してください! もちろん第一志望も大歓迎です。文化を研究してみたいなら、名城大学では人間学部を検討してほしいです。

趣味や特技を聞かせてください。

缶詰ならスコットランド名物の「ハギス」も日本で手に入る

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多趣味だとよく言われます。自転車、クルマ、音楽、料理、プログラミング、工作、読書、映画、ゲーム、写真、映像など。モノを買って集めるよりも、工夫・実践・創作する側に興味があるクリエイター系です。時間がどれだけあっても足りないですね! 老後の準備はバッチリだと思ってます。

加藤 昌弘(かとう・まさひろ)

名古屋市生まれ。専門はイギリスのスコットランド地域の現代文化史、メディア文化研究。立命館大学文学部西洋史学専攻・同大学院を経て、2006年からスコットランドのスターリング大学大学院でメディア研究の修士課程を修了。2011年、博士(文学)。立命館大学文学部国際コミュニケーション専攻の助教を経て、2015年、本学人間学部助教に着任。2019年から現職。著書に『異端者たちのイギリス』『ケルトを知るための65章』(いずれも共著)など。

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