育て達人第177回 代田 清嗣

江戸時代の判例を通して当時の刑事責任観を浮かび上がらせる

法学部法学科  代田 清嗣准教授(日本法制史)

10月12日に日本に上陸し甚大な被害をもたらした台風19号。本学でも被害が出ました。当日開講予定だった代田清嗣准教授による公開講座が中止になりました。「見せない法と見せる刑罰―江戸時代の刑法思想―」という演題でした。講座は後日の楽しみにして、江戸時代談議をしてもらいました。

落語ファンや時代小説愛好家は江戸時代の刑法に興味があると思いますが、先生にとっての魅力、関心は何ですか。

好きな言葉を色紙に書いた代田清嗣准教授

好きな言葉を色紙に書いた代田清嗣准教授

江戸時代に犯罪を裁く側は、対象の事犯がなぜ処罰に値するか、どういうことを刑法によって守らなければならないと考えていたか、当時の刑事責任観が分かることが魅力です。裁判を通じて、社会の価値観が見えてくるのです。

ニュースになった金品受領問題で、時代劇のような金貨贈与がクローズアップされました。どんな感想を持ちましたか。

江戸時代、菓子包みや反物の中に金貨が忍ばせてあったということが判例から分かります。人のやることは150年以上前と変わらないと感じました。当時、時候の付け届けか、賄賂かはあいまいで、判別に困っていたことが、やはり判例から読み取れます。

八代将軍、徳川吉宗の命で編まれた刑法典「公事方御定書」は公開されず、一部の関係者しか見ることができなかったと本で読んだことがあります。

確かに非公開でした。しかし、公然の秘密でした。草案の段階から内容が漏れ、一部で流布されていました。譜代大名の中にはこれを模範に藩の刑法を定めたところがあります。

このように、一般の人にあまり知られていない、江戸時代を正しく理解するための常識を教えてください。

例えば、町奉行がいきなり死刑判決を言い渡すということはありませんでした。時代劇で見るような、裁きの中で真実を白日の下にさらけ出すということも。死刑判決は、上司、例えば老中に伺いを立ててから、奉行が言い渡しました。奉行自身が裁判に出るのは、最初と最後だけ。途中経過は与力が担当しました。

日本法制史を研究するきっかけは何ですか。

名古屋大学法学部で受けた神保文夫教授の日本法制史の講義が楽しかったからです。遠山の金さんのような時代劇の中の「うそ」を教わったり、江戸時代の正義感の話に及んだりで聞かせどころ満載の講義でした。

研究者としての転機はありますか。

江戸時代の刑事判例集「御仕置例類集」が無料で手に入り、それを読み通したことです。明治以降の法理ではなく、江戸時代の法理で裁判を分析できるようになり、おかげで、過失犯の理解について先行研究を修正する論文が書けました。

大学ではどんなことを教えていますか。学生に繰り返し説いていることはありますか。

日本法制史を教える代田准教授

日本法制史を教える代田准教授

日本法制史と国際法文化プログラムを2年生に教えています。「歴史的にこうだから正しい」といった説には疑問をもつように話しています。一般的に言われる歴史は、せいぜい明治以後ですから。

名城大学生にメッセージを発してください。

大学時代は上司や部下といった格差もなく、比較的フラットな関係で意見が言えます。そんな環境を生かさない手はない。いろいろな考え方に接してほしいと思います。

学生時代にやっておけばよかったと思うことは。

哲学、自然科学、文学を教養程度でいいので勉強しておけば…。時間のある学生のうちに。語学、楽器、特にバイオリン、旅行。時間がなければできないことは、時間がなくなった時に「やっておけばよかった」と気づきます。

好きな言葉を色紙に書いてください。

論語にある「学而不思則罔 思而不学則殆(学びて思わざれば則ちくらし、思いて学ばざれば則ちあやうし)」です。どういうところが問題かということを学ばないまま、自分の価値観だけでしか物事を考えなくなることは危ういと、大学にいて常々思います。ネット空間の言説もしかりです。

趣味、気分転換法、愛読書を教えてください。

趣味は、クラシック音楽鑑賞、お茶、特に紅茶を味わうこと、切手収集です。観世流の能楽で謡と舞もたしなみます。気分転換法は掃除と歯磨きです。愛読書は、江戸風俗研究家、杉浦日向子さんの本です。むさぼるように読みました。研究者の目から見ても、情報に信ぴょう性があります。

この際力説したいことがあればどうぞ。

役に立つ、役に立たないというものの見方は一方的です。なくてもいいと思われているものほど、ないと困るものがあります。文化や歴史もそうです。実学重視の一方で、そういう価値観が必要なことも知ってほしいのです。

代田 清嗣(しろた・せいし)

静岡県伊豆の国市出身。2012年、名古屋大学法学部卒業、2017年、名古屋大学大学院法学研究科博士後期課程総合法政専攻修了。同年、名城大学法学部助教、2019年、同准教授。博士(法学)。法制史学会に所属。池波正太郎の時代小説「鬼平犯科帳」のモデル、長谷川平蔵に関するコメンテーターでNHKテレビに出演したことがある。

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