育て達人第180回 矢嶋 光

芦田均日記を研究 政治史の授業では多面的な観点を提示

法学部法学科 矢嶋 光准教授(日本政治外交史)

1948年に首相を務めた芦田均(1887~1959年)を研究。2年生対象に政治史の授業をもち、学生の反応が1月19日付中日新聞朝刊一面に載りました。歴史に対する多面的な観点を提示してきた結果が表れるとともに、時代思潮を垣間見ることができます。

授業で日米安全保障条約のことを取り上げた際の学生の反応が時代を映しているようです。

政治史の授業では、幕末から日中国交正常化(1972年)までの日本政治の歴史を教えます。60年前に燃え盛った安保闘争のドキュメンタリー番組を見せ、学生に感想を書いてもらいます。近年では、安保反対の抗議にもかかわらず、条約を結んだ岸信介首相(当時)を評価する声が多く見られます。

年配者には岸首相が安保改定を強行したという否定的な印象が根強いと思いますが。

しかし、学生の感想のなかには「あれだけの抗議にも方針を曲げなかったのはすごい」と、岸首相が信念を貫いたことに対する肯定的な評価が散見されます。なるほど、現在の学生は「そんなふうに見るんかな」という気持ちです。安保改定に限らず、授業では、さまざまな見方を提示し、学生の多数が考えていることとは異なる見方があることも強調するようにしています。

計30回の講義の目的は何ですか。

黒船来航から日清・日露戦争、2つの大戦、そして冷戦といった国際環境の変容と日本国内の政治体制の変動という相互作用を学ぶことで、21世紀の国際社会において日本の内政と外交がどのように推移していくのかを自分なりに考えられるようになってもらうことです。

芦田均日記に導かれて研究者になったそうですが。

最初は芦田均の研究がほとんどなかったからという安直な理由からでしたが、戦前の日記を翻刻する作業を手伝わせていただいた頃から、芦田という個性に引かれるようになりました。1950年に勃発した朝鮮戦争に際して、日本の再軍備を主張したことが「変節」と見なされてきましたが、研究していくうち、外交官だった芦田の普遍主義的国際政治観に基づく一貫性を見いだすようになりました。

研究者としての転機はありますか。

獨協大学の福永文夫先生のお誘いで、戦前に記された日記を閲覧できるようになったことです。2007年、博士後期課程に進んだ時でした。日記は、芦田が第一高等学校の学生であった1905年から死の床につく1959年までの間のほぼ全期間にわたって克明に記されています。

研究が面白いと思った瞬間はどんな時ですか。

日記を読んでいると、若かりし頃には甘酸っぱい恋愛、家庭を持つようになってからは妻や子どもに対する愛情というように、私的なこともたくさんつづられており、その人柄が分かり、とても面白いのです。ほとんど政治的な話題で埋め尽くされている原敬(1856~1921年)の日記とは対照的で、芦田の内面を知ることができます(もちろん原日記は原日記で他の政治家をあしざまにののしるなど、本音が漏れるところがあって面白いのですが)。

研究の一区切りが近著『芦田均と日本外交-連盟外交から日米同盟へ-』ですね。

初めての単著「芦田均と日本外交-連盟外交から日米同盟へ-」を手にする矢嶋光准教授

初めての単著「芦田均と日本外交-連盟外交から日米同盟へ-」を手にする矢嶋光准教授

学位論文を基に加筆修正した初めての単著です。戦前から戦後にわたる芦田の政治的足跡をたどることによって彼の再軍備論を内在的に分析し、戦後日本外交の形成期におけるその位置づけを明らかにしました。

学生に繰り返し説いていることはありますか。

学生からは「こんな勉強して意味があるの」と質問されますが、私は「意味があるかないかを決めるのは、君自身だよ」と答えます。大学で勉強したことが今すぐに役立つかはわからないけれども、将来どこかで生かせる機会に出合うかもしれないし、またそうした機会をつくることそれ自体が自分自身なんですよ、という意味です。

学生時代にやっておけばよかったと思うことは何ですか。

留学です。英語をしゃべれるようになっていたら、もう少し研究の幅が広がったと思うからです。

好きな言葉を色紙に書いてください。

好きな言葉を色紙に書いた矢嶋准教授

好きな言葉を色紙に書いた矢嶋准教授

「ものは心で見る。かんじんなものは、目では見えない」です。「星の王子さま」の一節です。

趣味を教えてください。

ラグビー観戦と山登りです。高校、大学とラグビー部でした。高校時代には、花園(全国大会)に出ました。と言っても、当時の私はまだ1年生でしたが。ポジションはスクラムハーフでした。体をぶつけ合い、痛いのですが、その非日常が楽しい。アドレナリンが出て、普段とは違う感覚を味わえます。

最後に、この際強調しておきたいことがあれば、何なりと。

学生には「過去は変えられる」と言っています。例えば大学受験。たとえ失敗したとしても、それをバネにその後の学生生活を充実させることができれば、失敗は自分にとっての転機になるかもしれません。逆に受験で成功しても、それに満足してその後の学生生活を無為に過ごしてしまっては、成功は失敗になってしまうでしょう。今をどう生きるか、その選択は、未来はもちろん、過去さえも変えることができるのです。

矢嶋 光(やじま・あきら)

1981年、滋賀県生まれ。2014年、大阪大学大学院法学研究科博士後期課程修了。2015年から現職。博士(法学)。主要論文に「日本国憲法第9条と集団安全保障-芦田均の軌跡を手がかりに」「外務省連盟派とその政策-戦前外交官のキャリアパスと『機関哲学』の形成と継承」など。日本政治学会、日本国際政治学会、日本歴史学会に所属。

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