育て達人第181回 津村 文彦

本学教育功労賞受賞者はタイでは呪術師の文化人類学者

外国語学部国際英語学科  津村 文彦教授(文化人類学)

本学の2019年度教育功労賞を外国語学部の「海外プログラム実施・運営コアメンバーズ」の代表者として受賞しました。研究者としては、東北タイの村をフィールドにする文化人類学者。現地では呪術師でもあり、現地人に深く食い込んでその精神生活を掘り下げています。

なぜ文化人類学に進んだのですか。

子どものころから暗闇が怖かったのですが、半面、興味もありました。妖怪を描いた水木しげるさんの漫画も好きでした。架空の考古学者を主人公とした冒険映画「インディ・ジョーンズシリーズ」にも興味がありました。

フィールドは。

東南アジアの東北タイが主要な調査地域です。ラオ系住民に見られる、精霊信仰や呪術などの宗教文化を中心に研究してきました。最近は、呪術的入れ墨、例えば、敵の攻撃から身を守ったり、異性をたぶらかしたり、幸運を呼び込んだり…について地域間比較を行ったり、呪術的な伝統医療、例えば、息を吹き掛けることでキングコブラの毒を消したり…がもつ感覚的経験について、研究しています。

端的に表現すると。

一言でいうと、お化けやまじないの研究、言い方を変えると、生活や信仰の裏側の部分の研究です。そうした見えない存在や力とともに生きる人たちと一緒に暮らし、話を聞くなかで、論文を執筆してきました。

研究室はエスニックな雰囲気です。額に入ったハンカチのような布は何ですか。

呪布(右肩の後ろ)を背に、東北タイの方言を書いた色紙を手にする津村文彦教授

呪布(右肩の後ろ)を背に、東北タイの方言を書いた色紙を手にする津村文彦教授

呪布(じゅふ)という呪術に使う布です。実は2001年にタイで呪術師になりました。呪術師にはタブーがあります。酒は飲めません。血や生肉を食べると悪霊が生じると言われ、寿司や刺身も食べていません。師匠は亡くなりましたが呪術師はやめず、自分のアイデンティティーの大きな部分を占めています。

現地人の精神世界に迫るにはこれ以上ない「資格」ですね。

彼らにとってお化けは、日本以上に日常的な存在です。私は現地では「アチャーンピー(お化け先生)」と呼ばれることもあります。アチャーンは阿闍梨(あじゃり、高徳の僧)、ピーはお化けの意味です。お化けと呪術については普通のタイ人以上に詳しいと思います。

新型コロナウイルス感染症で現地に入れないのは痛いですね。

調査地域に赴いてフィールドワークをし、人々と自由に話をするなかで生のデータを取ってきます。新型コロナの広がりのため、海外でのフィールドワークができず、研究にも多かれ少なかれ影響が出ています。

2019年度教育功労賞の感想をあらためて語ってください。

今回の受賞は、「学部ベースの海外プログラムの実施・運営と国際共修経験による教育効果」(海外プログラム実施・運営コアメンバーズ)についてのものでした。2016年度の外国語学部開設時より、学部教育の中核の一つとして進めてきた留学プログラムで、英語学習を中心としたセメスター留学のほかにも、たくさんの海外プログラムをこれまで進めてきました。こうしたプログラムは、一緒に賞を受けた学部事務室の菱田圭祐主査(2020年8月異動で国際化推進センター課長)をはじめとする事務スタッフの細やかな配慮と大変な尽力の賜物です。こうした魅力的なプログラムを支えてこられたすべての方に感謝します。

https://www.meijo-u.ac.jp/news/detail_23154.html

海外プログラムの実施・運営でうれしかったことは何ですか。

留学から帰ってきた学生が見違えるほど成長していたときです。それは単に英語能力の向上ばかりではありません。自分とは異なるものへの寛容さ、自分で考え発信する力など、いろいろな面で学生の成長を実感すると、やりがいを感じます。ただ、留学にさえ行けばみんなが成長するというわけではありません。その学生自身の学ぶ意欲によるところが大きいとは思います。

本学の海外研修の売りは。

海外研修の売りはいくつもありますが、たとえば2年次のセメスター留学では、「希望者全員留学」と「フルサポート制度」が強みです。2年次の前期か後期に、アメリカ、カナダ、オーストラリアの13の留学先で1セメスター(13~16週)の間、主に英語を学ぶというものです。原則、希望者全員が参加でき、留学先の授業料を全額、名城大学が負担します。さらに成績優秀者については、渡航費や居住費などまでも補助するというフルサポート制度があり、学生の学ぶ意欲を高めています。

 そのほかにも、長期留学や、3年次で海外インターンシップや国際フィールドワークもあります。そこでは、ただ外国語を学ぶだけではなく、学んだ言葉を使っていったい何をするのか、何ができるのかを、実践的に学ぶことを目指しています。

コロナ禍で導入した遠隔授業は順調ですか。

遠隔授業自体は、4月後半から始まっており、すっかり新たなやり方に慣れてしまいました。遠隔授業といっても、ウェブ会議システム「Zoom」などのリアルタイムのビデオ会議を使うこともあれば、事前に撮影した動画を使って教授することもあります。いろんなパターンを織り交ぜながら、授業を進めているところです。最も好評だったのは、「タイの言語と文化」の授業です。Zoomでタイのコンケン大学(協定校)とつないで、タイ人の学生たちとタイ語で自己紹介などの会話を実践したときのことですね。学生は「Zoomを使った授業で良かったと、初めて思いました」と感想をくれていました。コロナ禍の今しかできないやり方があると思うので、学生が少しでも多くを学べるようにいろいろと模索しています。

学生に繰り返し説いていることは何ですか。

1年生の基礎演習Ⅰの授業で

1年生の基礎演習Ⅰの授業で

特にありませんが、あえて言えば、「自分で考えろ」ですね。授業などでは「大事なところはどこですか?」と聞いてくる学生がよくいます。そういうときは「自分で考えてほしい」と思います。

受験生にメッセージをください。

1年生の基礎演習Ⅰの授業で

1年生の基礎演習Ⅰの授業で

自分の好きなこと、やりたいことを大切にしてください。家族や友人、先生など、周りの人間が教えてくれることもたくさんあるでしょう。けれども、最後は、自分で決めた道に、自信をもって進んでください。

好きな言葉を色紙に書いてください。

あまりありません。「บ่เป็นหยัง(ボーペンニャン)」かな。東北タイの方言。「まあ(小さいことは)気にするな」。みたいな意味でしょうか。細かいことに悩まず、気楽に生きるのが理想です。

愛読書を挙げてください。

英国のオックスフォード大学社会人類学教授や王立人類学研究所長を務めたE.E.エヴァンズ=プリチャードの『アザンデ人の世界 妖術・託宣・呪術』です。アフリカ中部に分布するアザンデ族に関する論考で、見えない力を対象に研究することのヒントにあふれています。

息抜き法や趣味を教えてください。

めったに肩が凝りません。基本的に息が抜けています。脱力しています。なので、特別な息抜きはありません。趣味といっても、映画も見るし、本も読むし、自転車にも乗るし、ジョギングもします。でも一番好きなのは、よく寝ることでしょうか。

津村 文彦(つむら・ふみひこ)

大阪府出身。2003年、東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。博士(学術)。福井県立大学学術教養センター准教授を経て2016年4月から現職。専門は文化人類学、東南アジア地域研究。著書に『東北タイにおける精霊と呪術師の人類学』(めこん)。

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