育て達人第186回 目黒 淳一

国のプロジェクトや企業との共同研究に積極的に取り組む

理工学部メカトロニクス工学科  目黒 淳一准教授(自動運転)

自動運転の研究開発が産官学で進んでいます。期待も高まります。さまざまな最先端の技術が結集された自動運転。その中で、自動車が自分の位置を自動で推定する分野を研究しています。国のプロジェクトや企業との共同研究に積極的に取り組む目黒淳一理工学部メカトロニクス工学科准教授に進捗を取材しました。

参加しているプロジェクトの説明からお願いします。

SIP2のプロジェクトで用いているデータ収集車両。位置推定のための計測機器などを載せている

SIP2のプロジェクトで用いているデータ収集車両。位置推定のための計測機器などを載せている

内閣府のプロジェクトである「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/自動運転(システムとサービスの拡張)」「自動運転技術(レベル3、4)に必要な認識技術等に関する研究」に金沢大学、中部大学と共同で参加をしています。このプロジェクトでは、東京のお台場を中心とした市街地をターゲットとして自動運転に必要な技術を研究開発することで、今の技術では足りないことを明確にすることを目的にしています。その中で名城大学は自動車の位置推定を担当しています。

その成果は。

SIP2のプロジェクトで用いているデータ収集車両全景

SIP2のプロジェクトで用いているデータ収集車両全景

東京・お台場等で収集した自動運転の位置推定技術開発用のデータセットの公開を今年3月に行いました。これまで、多くの研究開発用のデータが公開・活用されてきましたが、衛星測位技術(GPS/GNSS) に関しては汎用的に利用できるデータは公開されておらず、開発者が独自にデータを収集しなければならない問題がありました。今後の研究の進展に寄与できると思います。

プレスリリース

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日本で自動運転はいつごろ実現すると考えますか。

適用場所や自動運転のレベルによって異なると思います。高速道路におけるドライバーの監視下にある自動運転(レベル2、3)は、自動車メーカーから商品化がされており、今後も広がっていくと思われます。

一般道の自動運転は、MaaS(Mobility as a Service:移動手段としてのモビリティー)の範疇(はんちゅう)にあるバスやタクシーのような形で、まず自動運転が実用化されていくと思われます。現時点でも実証実験レベルでは、運用が可能となっています。ただ、本当にビジネスとして成立しているかは、まだわかりません。今後実証実験を通して、安全性・社会受容性の検証がされていくでしょう。

また、自動運転の技術を使った自動車のサービスも実用化する可能性もあります。例えば、AI教習車のようなものも検討がされています。安全性と社会受容性を考えると、このような自動運転の技術を利用したサービスの方が、実現が早いかもしれません。

これまでどんな研究をしてきましたか。

学生の頃から一貫して、位置推定と地図に関係する研究をしています。特にGPS/GNSSをはじめとした衛星を利用した位置推定に関する研究を強みとしています。ロボットや自動車、ドローンにさまざまなセンサーを設置して、計測したデータの解析をしています。最近では自動車の自動運転に関わるテーマが多く、位置推定と地図構築/更新技術の高精度化、および信頼性保証に関する研究をしています。また、ロボット技術とVR(Virtual Reality)を融合した研究も行っています。

研究者になったきっかけは何ですか。

研究者の登竜門となる博士後期課程に進学したのが研究者になったきっかけですが、大きな理由は無く修士課程で行っていた研究が楽しかったことが一番の要因な気がします。その後、博士後期課程でも、大変でしたが、比較的楽しく研究をすることができて、そのまま大学の研究者として残っていく道もあったのですが、自分が作った技術を実用化させることをやってみたい気持ちがあり、博士取得後に企業研究所に就職をすることにしました。

進路選択ですね。

楽しそうにできる仕事を求めていたら、研究者になっていたという感じです。結果的に、研究者は自分の特性と合っていたので、自分が楽しめることを求めて進路を決めてきたのは間違ってはいなかったと思います。

博士取得後に入った豊田中央研究所やトヨタ自動車勤務で得たことは何ですか。

豊田中央研究所もトヨタ自動車も、非常に優秀な方がたくさんいらっしゃいました。特に豊田中央研究所はトヨタグループの頭脳としての役割もあり、さまざまな分野の優秀な方がいらして、メーカーの研究所ですが、純粋数学や経済学を専門として研究・仕事をされている方もいました。そのような多様性が高い場所で研究ができたのは、非常にいい経験になっています。

学生はどんな技術者に育ってほしいですか。

VR技術の研究で使っている電動車椅子とヘッドセット=天白キャンパス2号館で

VR技術の研究で使っている電動車椅子とヘッドセット=天白キャンパス2号館で

自分の頭で考えて、決められる技術者になってほしいと思っています。これからの社会は予測不可能なことが多く、学生が社会に出た際にも今まで習ったこと・常識が塗り替わっていくと思います。その時に重要なことは、きちんと状況を見て、考えて、前例にとらわれずに判断をしていくことだと思っています。

VR技術の研究で使っている電動車椅子とヘッドセットでジェットコースターのような体験ができる

卒業生・修了生の進路は。

モノづくりに興味がある学生が多いので、メーカーに就職をする学生が多い気がします。特に研究室で自動車を使った研究が多いので、自動車系のメーカーに就職する学生が半分ぐらいいる印象です。

好きな言葉を色紙に書いてください。

Connecting The Dots

Connecting The Dots

Connecting The Dots

スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学卒業式のスピーチの言葉です。

未来を見越して点(Dots)をつなぐことはできないが、過去を振り返ると自分が行ってきたことがどのようにつながってきたかはわかる。未来のことを考えて、今何をするかを迷うのではなく、今熱中できることを見つけ、それに情熱を注ぎなさい。それが結果的に未来の自分の助けになっているという意味と解釈しています。

さらに言うと。

近年は社会が変化する速度が非常に速いので、その状況状況で考えて行動をしなければなりません。では未来のことを何も考えなくてよいかというわけでもなく、未来の自分の可能性を減らすことは避けるべきでしょう。そのために重要なことは、今自分が熱中できて、自分の血肉となりそうなことに集中することだと思います。それが将来役に立つかどうかはそんなに気にすることは無いということです。

わが人生に置き換えると。

自分自身、将来何に役立つかなど考えずに取り組んできたことが、今振り返ると、点(Dots)としてつながっていることに気づきます。自動運転の研究も。また、人との縁も感じます。

縁とは、具体的に。

「人とのつながり」を痛感する機会がこれまで何度もありました。大学院時代に一緒に研究していた電機メーカーの人とは今も研究でお世話になっています。豊田中央研究所から名古屋大学に移った先生とも共同研究をしています。いろんなご縁がありまして企業との共同研究も7社とさせていただいています。あるメーカーのセミナーに学生を連れて参加し、いろいろ質問したことがきっかけのようになって共同研究につながったこともあります。

つながる要諦は。

研究開発した技術は広く世の中で使ってほしいと思っているので,出会った方々の立場に勝手になり、自分ごとのようにどのように解決できるのかを無意識に考えていることが多いです。その逆で、相手の方々の特徴と、自分の特徴が相乗効果を生む場面は無いか、ということも常に意識している気がします。これらがカチッとはまると、とてもいい関係性でいられると思います。

最後に、趣味を教えてください。

料理、サウナ、アウトドアです。

コロナ禍の影響で外に出かけることが少なくなったので、最近は料理をよくやっています。週末は今まで挑戦したことがない食材や調理法を試したりしています。先週は2回目の江戸前の握りずしに挑戦しました。

目黒 淳一(めぐろ・じゅんいち)

1980年、千葉県生まれ。2002年から、早稲田大学で高精度GPS応用技術、移動測量/環境計測技術を研究。2008年、同大学大学院理工学研究科博士後期課程を修了し、博士(工学)を取得。その後、株式会社豊田中央研究所で測位/地図生成技術を研究。2015年から、トヨタ自動車株式会社で自動運転技術に関連した業務に従事。2017年から名城大学准教授。自動車に適用する測位/地図情報の高度化、評価手法の開発に携わる。2018年から名古屋大学客員准教授。著書に『自動運転技術入門: AI×ロボティクスによる自動車の進化』(3章地図作成と自己位置推定を担当、オーム社)、『自動運転 (モビリティイノベーションシリーズ 5)』(3章認知:地図と位置姿勢推定を担当、コロナ社)。日本ロボット学会、日本機械学会、計測自動制御学会、測位航法学会、IEEEに所属。

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