育て達人第187回 岩井 眞實

日本演劇研究者、比較演劇研究者、俳優、劇作家、落語家の五役を演じるマルチタレント

外国語学部国際英語学科 岩井 眞實教授(演劇学、近世文学)

日本演劇研究者、比較演劇研究者、俳優、劇作家、落語家というマルチタレント。新型コロナウイルス感染症が世界で猛威を振るう中の2021年4月、外国語学部国際英語学科の岩井眞實教授は、スリランカで日本語を教える現地の教師に能と歌舞伎を遠隔で教えました。現地の教師たちは日本文化に関する専門知識を求めており、歌舞伎と人形浄瑠璃の違いなどを日本語で詳しく解説し、日本演劇研究者の役を海外に向けて演じました。

スリランカの日本語教師へのZoom講義の感想からお話しください。

スリランカの日本語教師へのZoom講義のスクリーンショット

スリランカの日本語教師へのZoom講義のスクリーンショット

受講者の皆さんが大変熱心なのに驚きました。対面ではないので直接の反応を感じることはできなかったのですが、Zoomを通して熱は伝わってきました。私も楽しく講義をすることができました。

日本演劇研究者、比較演劇研究者、俳優、劇作家、落語家という五枚看板を掲げていますが、まず日本演劇研究者としての研究について語ってください。

スリランカの日本語教師へのZoom講義の資料

スリランカの日本語教師へのZoom講義の資料

「近代と前近代」「中央と地方」「日本と西洋」、この3つの軸を常に意識しながら研究を行っています。いまは2つ目の軸に取り掛かっています。『近代博多興行史』というタイトルの本を今年出版する予定です。文化は東京だけにあったのではないのだということを検証したいと思っています。

『近代博多興行史』の上梓とは…。どういうきっかけですか。

偶然の出会いが重なりました。福岡の芝居に造詣の深い武田政子さん(1911~2003年)という方がいました。武田さんは、劇場経営や興行をした祖父、父から聞き、自らも見聞きした明治以降の博多の芝居について研究ノートを書きためていました。そのノートを「興行史」としてまとめる作業が始まり、福岡女学院短大国文科助教授に着任した私も作業メンバーに加わりました。武田さんは長年、福岡女学院の国語教師を務めました。2018年には『芝居小屋から 武田政子の博多演劇史』を編者として刊行しました。

比較演劇研究者でもいらっしゃいますが、どんな分野を研究していますか。

最近の研究としては、近松門左衛門の世話物と西洋の市民悲劇(Domestic Tragedy)の比較研究があります。両者は影響関係がないにもかかわらず、驚くほど似ているのです。例えば、1703年初演の近松の「曽根崎心中」と、イギリスのジョージ・リロの1731年初演の「ロンドン商人」です。

俳優で劇作家だったころのことを語ってください。

俳優として

俳優として

出身校の奈良女子大学附属高校に進駐軍の劇場が残っていました。ここを舞台にした演劇が盛んでした。俳優の八嶋智人(やしま・のりと)さんもOBです。私もそこで演劇に染まりました。福岡に赴任して足掛け16年、劇団活動をしました。100人ぐらい収容の劇場で5公演打って400人ぐらいの入りでした。俳優をやったことはとてもいい経験になりました。演じることを通して、自分の心と体を知ることができたからです。稽古・本番のすべてが新しい発見の連続でした。

演劇が研究対象だけでなく実践の舞台でもあるわけですね。

舞台の一場面

舞台の一場面

稽古を重ねれば重ねるほど、頭が真っ白になってセリフを忘れるということが理解できました。

台本は翻訳も含めて十数本書いたと思います。論文・劇評・雑文など書く作業そのものは数え切れないほど経験してきましたが、もしかすると台本を書いている時間が一番しあわせな時間だったのかもしれません。

台本といえば、作家の村上春樹さんは早稲田大学の学生時代、学内にある演劇博物館で映画の古いシナリオを読み、それが小説家になって役に立ったかも、と言っています。同じく早稲田で演劇を学んだ先生はどうでしたか。

舞台で

舞台で

演劇博物館は演劇資料の宝庫だと思います。早稲田で世界に最も誇れるものは演劇研究とこの博物館だと思っています。歌舞伎や浄瑠璃の台本を読むことはこのうえない快楽です。

参考サイト

落語については。

高座で

高座で

福岡の落語家の仲間に入りました。高座名は粗忽家鴈治郎(そこつや・がんじろう)。上方落語です。十八番は「胴乱の幸助」「阿弥陀池」などです。

2016年に名城大学に赴任して、どんなことを教えていますか。

「忠臣蔵」を講じる

「忠臣蔵」を講じる

福岡の劇団は畳んできました。名城では、日本の伝統芸能、演劇(現代演劇・西洋演劇も含む)などを教えています。

「歴史と文化」という授業では、赤穂事件と忠臣蔵について講義をしているのですが、学生のほとんどは「忠臣蔵」を知りません。それでも興味を持ってついてきてくれるので、楽しく授業を行っています。

学生にメッセージをください。

できるだけ役に立たないことを見つけて懸命に取り組んでください。役に立つ学問などたかが知れています。自分にとって得にならないこと、無駄なことをやらないと、血となり肉とならないという考えです。遠い分野に取り組んでも、自分が好きなところには絶対に戻ってくるものです。

座右の銘を色紙に書いてください。そのココロは。

座右の銘

座右の銘

「快」です。私は新しい発見をしたときの快感があるから学問を続けているのです。その快感のためならどんな努力もいといません。ですから、私は快楽のない努力を人に強いるのは嫌いです。

趣味、気分転換法、好きな場所を教えてください。

趣味はコロナの影響で外に出なくなったこともあり、最近特にありません。ゴルフは2年以上やっていませんし、昔はどこに行くにもロードバイクを使っていたのですが、最近それもやめました。気分転換に散歩をするぐらいです。好きな場所は場末の酒場です。今は行けませんが。

愛読書は。

たくさんありますが、強いて挙げるなら漱石の「坊っちゃん」とアントン・チェーホフ(ロシアの劇作家)の「三人姉妹」でしょうか。

最後に一言あれば。

日本語でも外国語でもいいので、大学で劇をやりましょう。外国の大学ではやっていますから。

岩井 眞實(いわい・まさみ)

1959年、奈良県生まれ。1983年、早稲田大学法学部卒業、1990年、早稲田大学大学院文学研究科博士課程(芸術学・演劇)修了。日本学術振興会特別研究員、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院客員研究員、福岡女学院短期大学国文科助教授、福岡女学院大学人文学部教授などを経て2016年の外国語学部設置と同時に同学部教授。歌舞伎学会常任委員、日本演劇学会編集委員なども務めた。

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