育て達人第194回 萩野 貴史

「犯罪」となる行為の限界を探り続ける

法学部法学科  萩野 貴史准教授(刑事法)

天白キャンパス・タワー75の隣、10号館に法学部の研究室はあります。ホテルのような廊下を通って萩野貴史准教授の部屋のドアを開くと、図書館を思わせるほど整然と書架に本が並んでいます。

今年も新入生を迎えました。リーガルマインドを養うために何をしていますか。

難しい質問ですね。「リーガルマインドを養う」ことを念頭に置いた特別な工夫というものを私は特にしていません。確かに、名城大学法学部は「社会全般についての幅広い正確な知識と論理的な思考力」や「他者と議論して価値観を共有していくスキル」、「社会の変化を敏感にとらえる柔軟な感性」等を備えた人材の育成を目指しています。あえて挙げるならば、正確な知識と論理的な思考の重要性を強調することを、授業では意識しています。また、幅広い知識を獲得するという点からも、将来的にはそれほど役立たないかもしれませんが「刑事法の世界に興味をもってもらう」という点を心がけています。

どんな指導法ですか。

コロナ禍になるまで、課題が多くきついゼミと言われたこともあります。確かに私は、一人一人の学生にとって、「きついけど、もう一歩だけ頑張れる」という分量を見極めることを目標にしています。また、グループワークやグループでの報告を基本にしています。勉強は一人で黙々と取り組まねばならない時が必ずあります。しかし、他者に説明することで考えが整理されるという面もありますし、また「みんなでやると楽しい」という面があることも事実です。グループワークの場合には、一部の人だけに任せることがないよう、全員で協力しないとこなせない量の準備を要求しています。刑事法のゼミにせっかく入ったのであれば、卒業時には「名城大学のこの学年で刑事法学に一番詳しいのは自分たちだ」と胸を張って言えるようになってもらいたいです。

幸いなことにこれまでゼミ生に恵まれ、「きつい」と言いつつも課題をこなし、その中で学生間や私との関係性を深め、卒業後まで続く仲間を見つけてくれているようです。

机の前のフォトストリームはその象徴ですね。

ゼミ生が記念のアルバムを手作りして卒業の時に送ってくれることが比較的多いのですが、やはりうれしいです。そこで、デジタルフォトフレームに取り込んで次々に映し出すように設定しています。これらの写真を眺めていると、歴代の卒業生との思い出が鮮やかによみがえります。「飲んでいるけど来ないか?」と卒業生たちから突然誘いがきたり、仕事の途中に研究室に立ち寄ってくれる卒業生もいたりしますが、大歓迎です。

ゼミ合宿

ゼミ合宿

納会

納会

最近、刑事法の知識が問われるニュースはありましたか。

旅先のスナップ(旧奈良監獄)

旅先のスナップ(旧奈良監獄)

刑事法の世界では、この何年かだけをみても、さまざまな変化が起きています。たとえば、いわゆる「あおり運転」の厳罰化や性犯罪に関連する法改正などが記憶に新しいところです。学生の皆さんに身近な問題としては、成年年齢の問題と絡んで、今年(2022年)4月から18歳・19歳を「特定少年」とする少年法改正が行われました。法改正などは、必ず良い方向に社会を変えるわけではなく、時として逆方向に社会を導いてしまうこともありえます。しっかりとした情報やさまざまな意見に触れて、法改正による変化ははたして妥当なものか、問題点は残されていないのかを考えてみてほしいと思います。

最近研究していることは。

旅先のスナップ(旧奈良監獄内部)

旅先のスナップ(旧奈良監獄内部)

ここ1〜2年、死体遺棄罪の研究に取り組む機会を与えられたため、「遺体や遺骨の取り扱い」に関心をもってきました。近時の社会問題としても、重要な検討課題であるように感じます。たとえば、親が自宅で死産した子どもの遺体を自宅に置いていたところ、1日程度のわずかな期間であったにもかかわらず「死体遺棄罪」で逮捕されたり有罪判決を受けたりするケースがいくつかありました。また、先日も「散骨」に関する報道がありましたが、散骨自体は社会的に認知されているようにも思える一方で、はたして適法といえるかさらなる検討を求める論文が発表されたりしています。「遺体や遺骨の取り扱い」が地域や時代によってさまざまなだけでなく、技術開発によって最近では「宇宙葬」や「遺骨ダイヤモンド」などという言葉も聞かれるようになりました。法律によって何をどのように規制していくべきか、規制などせず人々の自由に任せてよいのか、わからないことが多くあります。

これまで不作為犯論を中心に研究してきましたが、その研究を継続しつつ、他にも論文を書いてみたいと思っているテーマがいくつかあるといった状況です。

法律の研究者になったきっかけは。刑法学を選んだのはなぜですか。

旅先のスナップ(旧奈良監獄内部)

旅先のスナップ(旧奈良監獄内部)

大学生の時に所属したゼミで、恩師が研究者の世界(学界)の話や刑法学の話を本当に楽しそうに語っていたため、その背中を追いかけてみたい、自分もその世界を見てみたいと考えたことが、研究者を本気で目指したきっかけです。

刑法学のゼミを選んだことに、それほど大きな理由はありません。その時は、単純に「刑法学って面白そうだな」という程度の興味でした。特に1〜2年生の時は部活動が大学生活の中心になるくらいで、あまり学業に熱心な学生ではありませんでした。3年生以降のゼミを選ぶ段階になってようやく、「せっかく法学部に入ったので1つの法律分野くらいは『真剣に学んだ』と胸を張って言えるようになりたい」と考えました。その時に、「法学部でも1、2を争うくらい厳しい」とのうわさに引かれて、そのゼミを選びました。

座右の銘を聞かせください。

大切にしている言葉は、「道を極める」というものです。大学の卒業式の時に、ゼミの恩師が希望者の卒業アルバムに一言ずつ、それぞれに合わせた激励の言葉をくださりました。その時に私が頂戴した言葉が、「道を極めて下さい」というものでした。恩師はもう覚えておられないでしょうが(笑)。

もちろん私に何かの道を極めることなどできませんが、踏み出した一歩を極点まで進めようとする「心構え」として常に意識しています。

私が知るわずかな期間だけでも、大学教員に求められる力は大きく変化しているように感じます。漢字の意味からも、学問を「究める」ことだけではなく、職場や社会で私に必要とされる力があるならば、(ゼミ生との関係であろうと、事務作業であろうと、たとえ飲み会の幹事であろうと)その方面の力を「極める」ための努力をしようという点が自分の行動指針になっている気がします。

恩師から贈られた言葉への思いを色紙に書いた萩野貴史准教授

恩師から贈られた言葉への思いを色紙に書いた萩野貴史准教授

恩師の言葉

恩師の言葉

趣味、好物は。

この1、2年はコロナ禍もあって、ほとんど何もできていないのですが…。関東地方で生まれ育ち、10年ほど前に初めて東海地方在住となりました。これも何かのご縁だと思い、休みの日には、名古屋から比較的近場の名所を散策したり、自然豊かなところをのんびり歩いたりするのが好きです。

好物はブラックコーヒーとラーメンでしょうか。私をよく知る学生や卒業生からの差し入れは、ほとんどがブラックのアイスコーヒーです(笑)。また、散策の機会には、愛知県内にとどまらずさまざまなカフェやラーメン屋さんに立ち寄っています。

旅先のスナップ(御在所岳)

旅先のスナップ(御在所岳)

旅先のスナップ(愛知県新城市の乳岩峡)

旅先のスナップ(愛知県新城市の乳岩峡)

確かに研究室の片隅にラーメン関連の本がありますね。

ラーメンの本と女子駅伝部のパンフレット

ラーメンの本と女子駅伝部のパンフレット

ラーメンの本とともに、女子駅伝部のパンフレットも飾っています。中学から大学まで兄の影響でソフトテニスをしており、大学でも体育会に所属していました。運動は、もともと見るのもするのも全般的に好きです。名城大学の運動部が活躍している姿はやはり嬉しく、特に女子駅伝部は法学部生も少なくないので、陰ながら応援しています。もちろん、定期試験の答案用紙に「〇〇部で頑張っている」などと書かれても加点したりはしませんが(笑)。

この際、力説したいことがあればどうぞ。

今思いつくのは、「自分の好奇心や直感に従ってさまざまな勉強・体験をしておくこと」です。Apple社の創業者の一人であるスティーブ・ジョブズの言葉をほぼ借りていますが。

これから自分がどんな道に進むかわからない以上、将来的に何が役立つのかということも今の段階では決してわかりません。自分も、法学部生になって外国語はもう不要だ…と考えていましたが、修士課程入学時も博士課程進学時も外国語の試験があり、かなり苦労することになりました(特に博士課程進学時は、ドイツ語とフランス語で受験したのですが、学部生時代に真面目に第二外国語のフランス語を勉強しておけばよかったと何度後悔したかわかりません)。人生、本当に何が起きるかわからないです。

(心身に不調をきたすような無理はダメですが、)限界直前まで全力で取り組んでみることも大事だと思います。今は辛くても、その経験は、「あの頃、頑張った」という良い思い出になることが少なくありません。さらに、自分の経験に照らしても、必死に取り組む時間を共有した人とは、長く関係が続く仲間になれることもありますので、おすすめです!

萩野 貴史(はぎの・たかし)

1979年、茨城県生まれ。2002年、獨協大学法学部卒業、2012年、早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得後満期退学。獨協大学法科大学院特任助教、名古屋学院大学法学部助教・講師などを経て、2017年、名城大学法学部准教授。主要論文に「不真正不作為犯における構成要件的同価値性の要件について(1)〜(4・完)」など。日本刑法学会に所属。

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