育て達人第195回 内田 儀一郎

学内の研究分野を融合 ナノ材料電池応用の飛躍を目指す

理工学部電気電子工学科  内田 儀一郎教授(電子電気材料工学)

電気自動車(EV)に不可欠な電池の高性能化に世界中の研究者やメーカーが動いています。本学でも2020年度、ナノ材料電池応用研究の飛躍を目指して「次世代エネルギーマテリアルイノベーションセンター」が設置されました。代表者の内田儀一郎教授は大規模総合大学の強みを生かした学際的研究を主導しています。

次世代エネルギーマテリアルイノベーションセンターのPRをどうぞ。

次世代エネルギーマテリアルイノベーションセンターの紹介パネル

次世代エネルギーマテリアルイノベーションセンターの紹介パネル

名城大はほぼ全ての学部がそろっている総合大学です。名城大のセンター制度は、装置の共同利用など、分野間、研究者間の有機的連携を一気に促進し、大学の限られた研究資源で、最大限の成果を短期間で出せる非常に良い制度・戦略だと思います。

参考サイト

具体的には。

電池は、電気化学、材料、物理、電気回路などの要素を含む複合的デバイスです。電池研究では、学科、研究者間の垣根を超えたセンターが重要な「箱」の役割を果たせます。基本的に材料の専門家は応用を探していますし、計測やデバイスの専門家は新しい材料に興味があります。センターという「箱」の中で、材料作りが得意な先生、物性・界面評価が得意な先生、電池デバイスが得意な先生が“電池”をキーワードに緩くつながり、紹介パネルにあるように材料を作って、評価して、デバイスに使ってみるというサイクルを気軽に行うことができます。

リチウムイオン電池の開発で2019年ノーベル化学賞を受けた吉野彰終身教授・特別栄誉教授の役割は。

吉野彰終身教授・特別栄誉教授の前で研究発表する大学院生(右端)

吉野彰終身教授・特別栄誉教授の前で研究発表する大学院生(右端)

吉野先生には、センター全般のアドバイザーをお願いしています。2021年度は、定期的にセンターで研究ゼミを開催し、40人以上の学生と教員が参加しました。ご多忙の中、吉野先生にもご参加して頂き、大学院生の電池や材料の研究発表に対して、忌憚(きたん)のない貴重なコメントを頂きました。発表した大学院生は緊張の中、ノーベル賞受賞者の前で堂々と発表し、その後も高いモチベーションをもって研究し、社会へと巣立っていきました。ノーベル賞受賞者や候補者の先生方を巻き込んだ名城大のセンターは、研究以外にもこのように若手研究者が成長できる貴重なプラットフォームを提供できるため、教育活動にも貢献できていると思います。高校生へのアピールポイントにもなるのではないでしょうか。

一つの成果が出て2月2日のプレスリリースになりました。分かりやすく解説してください。

ガソリン車の1回の燃料補給での700 kmの走行距離に対し、1充電で実質500 km以上の走行を可能とする電気自動車の本格的普及には、現行の2倍以上のエネルギー密度を有するリチウムイオン電池負極の開発が必要です。カーボン負極を用いたリチウムイオン電池の理論容量は372mAh/gですが、今回、目標だった1,000 mAh/g以上のリチウムイオン電池を実証しました。

受け売りで恐縮ですが、リチウムイオン電池の需要は2021年の約400 GWhから、2030年には5倍の約2,000 GWhへと世界中で爆発的な増大が見込まれています。

今後ますます身近となるリチウムイオン電池は、今後10年、非常に重要な研究テーマで、その開発は省エネルギー化に貢献でき、カーボンニュートラル社会の実現にも寄与できると思っています。

プレスリリース

反響はどうでしたか。

リリースに名前を載せた大学院生たちには非常に励みになり、自信にもなったと思います。注目される舞台に立つことの教育効果は大きいです。私の方は学術講演会などで招待講演を多数頂けるようになり、名城大での研究活動を宣伝・アピールしています。研究予算獲得へと結びつけられるように、第2、3弾と継続的にプレスリリースしていきたいと思います。

学生に繰り返し説いていることはありますか。

午前中に大学に来ること。大学に来たら先輩、後輩とよくしゃべること、とよく言っています。部屋でワイワイ、ガヤガヤ、相談や笑い声が聞こえると良いと思います。研究室は学生と同部屋なので、興味ある話題には、すかさず違和感なく参入できるようになりました。

日常の研究風景。実験や議論をする大学院生

日常の研究風景。実験や議論をする大学院生

学部学生を指導

学部学生を指導

工学的と理学的という印象的なことを言われています。

「電子計測」の授業

「電子計測」の授業

もちろん個人的な意見ですが、工学的研究は社会に役立つ応用のテーマが主なので、荒くても良いので、スピードをもって行い、外部に発信することが重要だと思います。学生には「完璧でなくて良いので、速くこなすことが重要ですよ」と指導しています。工学部出身の私も「工学部は拙速を旨とすべし」と教えられました。

一方、理学的研究は基礎学術に関するテーマが主かと思います。将来、教科書に載るような法則や原理を発見できるように、粘り強く取り組むことが必要だと思います。

2021年12月に名城大で開催された吉野先生と野依良治先生(客員教授)の対談でも、大学は1を10にする研究ではなく、何もない0から1を生み出す研究に果敢に取り組んでいる。それは学術の発展に非常に重要なことで、その難しさを理解してほしい、というような事をおっしゃっていました。素晴らしいお言葉でした。地道な基礎的研究に取り組むことを大学の社会的責務と思い、やりたい研究とやるべき研究をバランス良く行えたらと思います。

対談の様子

ドイツ時代の思い出は。

ミュンヘン郊外のガルヒン市にあるマックス・プランク地球外物理学研究所に博士研究員として勤務しました。現地研究所採用の片道切符で、特に迷って決断した記憶もないので、振り返ると20代の気概と決意は素晴らしいと思います。2年程度で日本に帰ってこられましたが。

ドイツも含め、社会人になってから人間関係には大変に恵まれ、4人の素晴らしい上司と出会いました。皆さん饒舌(じょうぜつ)でよく会話していただきました。たくさんの格上の先輩方と深く関わり共に活動することで、自分の行動パターンも変わったと思います。先日の吉野先生と野依先生の対談でも、背景や文化の異なる人との交流が重要だと学生の質問にアドバイスを送っていました。

書棚には専門書と並んでビジネス書が。付せんもたくさん貼ってあります。

書棚にはビジネス書も

書棚にはビジネス書も

少し恥ずかしいものを発見されましたがビジネス書は大好きです。最近の本は刺激的なタイトルが多く、出版社の戦略にはまり、ついクリックしてしまいます。斜め読みして、付せんを貼っただけで満足するよくあるパターンですが、本にはお金を惜しまないことにしています。ネットで得られる無料の情報が1とすると、本の情報の価値は100で、さらに人との会話からの情報の価値は1000にも膨らむと思っています。やはり、裏話などを含む実体験に基づいた重要な知識やノウハウは人から人へと伝わっているのではないでしょうか。

研究室の片隅では金ぴかのトロフィーが輝いています。

電気電子工学科はOB電気会も参加する研究室対抗ソフトボール大会が恒例になっています。2019年度は、内田・平松美根男教授・竹田圭吾准教授(現・教授)研究室の合同チームで優勝しました。部屋でのワイワイ、ガヤガヤの効果で、学生が企画して背番号入りのユニホームを作り、盛り上がりました。

これをきっかけに私は定期的にバッティングセンターに通うようになりました。もちろん“バット”もクリックしてしまい、現在3本あります。コロナで中断している大会が再開されたら、学生キャプテンの忖度(そんたく)なく、レギュラーに指名されたいです。

研究室対抗ソフトボール大会の優勝トロフィーとバットを持つ内田教授

研究室対抗ソフトボール大会の優勝トロフィーとバットを持つ内田教授

研究室対抗ソフトボール大会の優勝記念写真(2019年10月26日)

研究室対抗ソフトボール大会の優勝記念写真(2019年10月26日)

色紙に一筆書いてください。

色紙とリチウムイオン電池を手にする内田儀一郎教授(後ろは電池材料作製に使用しているプラズマスパッタリング装置)

色紙とリチウムイオン電池を手にする内田儀一郎教授(後ろは電池材料作製に使用しているプラズマスパッタリング装置)

講義や学生指導のアドバイス、また研究でご協力頂いている先生方、書類の手助け、講義や研究の支援、また今回の広報課の取材活動など縁の下で支えて頂いている事務職員の方々、また家族にこれからも「感謝の心」を忘れずに活動していきたいと思います。この場を借りて、今後ともよろしくお願い致します。

この際、強調しておきたいことがあればどうぞ。

研究室の掲示板。吉野終身教授の言葉「創造と挑戦」を励みに学生ともども頑張る

研究室の掲示板。吉野終身教授の言葉「創造と挑戦」を励みに学生ともども頑張る

残りの研究生活が17年ありますので、志を高く持ち“カーボンニュートラル”をキーワードにNature系雑誌にチャレンジしたいです。良いテーマに巡り会い、数少ないチャンスをものにできると信じて学生たちと日々奮起したいです。今後とも、ご指導とご援助をよろしくお願いします。

内田 儀一郎(うちだ・ぎいちろう)

1973年、山梨県生まれ。2001年、東北大学大学院工学研究科電気・通信工学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。核融合科学研究所COE研究員、ドイツのマックス・プランク地球外物理学研究所博士研究員などを経て、2010年、九州大学大学院システム情報科学研究院助教、2013年、大阪大学接合科学研究所准教授、2017、文部科学省学術調査官(兼任)、2019年、現職。大阪大学招へい教授、九州大学客員教授併任。主な筆頭著者論文に「Nanostructured Ge and GeSn films by high‑pressure He plasma sputtering for high-capacity Li ion battery anodes」Scientific Reports 12, 1742(2022)、「Decomposition and oxidation of methionine and tryptophan following irradiation with a nonequilibrium plasma jet and applications for killing cancer cells」Scientific Reports 9, 6625(2019)など、共著も含め全106編。応用物理学会、日本MRS(現在 理事)などに所属。

  • 情報工学部始動
  • 社会連携センターPLAT
  • MS-26 学びのコミュニティ