大学概要 【2020年度実施分】「脱炭素社会」に向かう新しい地域経済への挑戦-先進地域から地域資源を利活用した新しい地域政策を構想する-
経済学部
No.6
実施責任者井内 尚樹
現在、世界各国は「パリ協定」により低炭素社会から脱炭素社会への経済システムの構築が求められている。加えて、日本では人口減少、少子高齢化により地域が維持できない「消滅可能性都市」予測が提出されている(=いわゆる増田レポート)。「人口減少による地域衰退」が所与の前提となっている状況において、地域資源を利活用しながら新しい地域経済振興に取り組み、地域住民人口を維持・もしくは微増させている地域がでてきている。
本プログラムでは、地域人口を維持している先進地域の新しい地域政策をフィールドワークにより、ローカルベンチャー、地方自治体などとの連携によりながら、地域雇用増の取り組み、新しい地域経済政策を学生が「現場」で学び、「あたりまえとなっている前提」を疑い、新しい政策提案ができる人材として養成しようとするものである。
本プログラムは、昨年度から始まり、本年度は2年目の実施となっている。2年目は、昨年度に先進地域として選び、調査を実施した中国地方、近畿地方に加えて、東海地方についても、できれば地域調査・企業調査を実施したいと考えている。ただ、現在進行中の新型コロナウイルスの影響について、注視する必要があり、その影響如何によって、内容の一部変更が伴うことも念頭に置きながら、注意深く、2年目のプログラムを実施してゆきたい。
活動報告3
2021/02/04
3.「脱炭素社会」の宣言と自然エネルギー生産を基盤とした地域経済循環の構想
安倍政権では「脱炭素社会」を明確にしませんでしたが、2020年9月16日に誕生した菅政権は、「脱炭素社会」を宣言し、2050年にカーボンニュートラルの方向性を打ち出しました。
そこで、2020年12月25日に『経済産業省は、関係省庁と連携し、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定しました。この戦略は、菅政権が掲げる「2050年カーボンニュートラル」への挑戦を、「経済と環境の好循環」につなげるための産業政策です。』
あらかじめ、受講生に2021年1月25日の講義前にこの「グリーン成長戦略」についてレポートを作成し、提出してもらいました。それを踏まえて、経産省の「グリーン成長戦略」の問題点を議論しました。石炭火力発電所の廃止について明示はせず、「燃焼してもCO₂を排出しないアンモニアは、石炭火力での混焼など、水素社会への移行期では主力となる脱炭素燃料である」として、石炭火力にアンモニアを混焼させ実証実験しようとしています。
経済産業省の産業政策という性格から、産業別にカーボンニュートラルを目指し、数十年後の産業のイノベーションを前提としています。「水素発電は、選択肢として最大限追求していく」としています。産業別にカーボンニュートラルを目指す方向ではなく、環境省は、西粟倉村、下川町などを参考に「2018年4月に閣議決定した第五次環境基本計画では、国連「持続可能な開発目標」(SDGs)や「パリ協定」といった世界を巻き込む国際的な潮流や複雑化する環境・経済・社会の課題を踏まえ、複数の課題の統合的な解決というSDGsの考え方も活用した「地域循環共生圏」を提唱しました。「地域循環共生圏」とは、各地域が美しい自然景観等の地域資源を最大限活用しながら自立・分散型の社会を形成しつつ、地域の特性に応じて資源を補完し支え合うことにより、地域の活力が最大限に発揮されることを目指す考え方」です。
環境省の「地域循環共生圏」は地域資源を最大限活用した面的な取り組みによるカーボンニュートラルの方向です。経済産業省は産業軸という縦型でのカーボンニュートラルで、環境省は、地域という横型で産業連関を踏まえたカーボンニュートラルだとわかります。
最後に、「地域循環共生圏」の具体化を目指すに当たって、地域内の資金の流れがどのようになっているか、環境施策等の実施によりそれがどう変化するかを把握することが重要であり、「地域経済循環分析」ツールを環境省が開発しました。この「地域経済循環分析」を学生が住む地方自治体を調査し、地域でどれくらいの二酸化炭素排出量があるのか、どれくらい自然エネルギーのポテンシャルがあるのかを測定し、学生それぞれが自ら住む地域の地域資源を発掘し、「脱炭素社会」に向けての地域での取り組みをレポートとして提出しました。
従来どおりの活動が困難となる中、次年度については、新型コロナウイルス感染状況を注視しつつ、「脱炭素社会」を目指すために、これまでの活動を踏まえながら、新たな点-線-面的な地域経済循環の調査・研究方法の可能性を探ってゆきたい。
ACTIVITY
活動報告1
2021/02/04
今年度は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響があり、2020年8月上旬に予定していた3日間の座学とその直後の4日間の現地フィールドワーク調査の実施可能性をぎりぎりまで探っていました。その結果、前期中の現地フィールドワークは困難と判断し、2020年9月9日から11日までの期間に座学での講義をまず行い、フィールドワーク調査は、2021年1月定期試験直後に延期することにしました。
活動報告1では、2020年9月9日から3日間、授業科目「社会フィールドワーク」として実施した講義内容と学生の反応(レポート発表と提出、学生による討論)などを紹介していきたいと思います。
1.「脱炭素社会」を明確にできない日本と世界の動き
最初に、パリ協定締結以降の世界と日本の動きをビデオで見ました。ドイツでは、脱原子力発電に加えて、石炭火力発電の廃止を決めました。そして、石炭の蒸気機関の発明により、産業革命の母国であるイギリスが脱石炭火力発電の方向に向かっていることを学びました。欧州を中心に「脱炭素社会」に向けて動いているにもかかわらず、安倍政権は、2050年に向けて明確に「脱炭素社会」を掲げてはいませんでした。「日本は世界に遅れをとっている」との認識が学生に広まりました。
日本が遅れている理由について、学生が考えることができるように、「長期エネルギー需給見通し」平成27年7月、「エネルギー基本計画」平成30年7月、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略策定に向けた懇談会提言」平成31年4月、ならびに『日経新聞』、『朝日新聞』、『読売新聞』などの記事資料を学習しながら、討論を行いました。
「エネルギー基本計画」では、2030年段階でも石炭火力発電が20%を上回る数字として、明記されている事実。「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略策定に向けた懇談会提言」では、「脱炭素社会の実現に向けて、パリ協定の長期目標と整合的に、石炭火力発電等からのCO₂排出削減に取り組む。そのため、石炭火力発電等への依存度を可能な限り引き下げること等に取り組んでいく」とされ、欧州諸国のように、石炭火力発電の廃止ではなく、「依存度を可能な限り引き下げる」となっています。この表現の背景を新聞では、「座長は石炭火力発電の廃止を盛り込もうとしたが、財界委員が乗り込んで、石炭火力発電を維持するように」との働きかけを行ったことを明らかにしていました。
学生は、自らが生の政府の報告書、新聞記事の切り抜き資料などを学習することによって、日本の石炭火力発電の廃止の方向性が明確になっていないことを知ることができました。
活動報告2
2021/02/04
新型コロナ感染症の動向を注視しつつ、2021年1月25日から28日まで西粟倉村を中心としたフィールドワーク研修を企画していましたが、「緊急事態宣言」が愛知県に発出されたため、現地フィールドワークを中止し、座学での講義を続けることになりました。活動報告2及び3では、その学習内容を紹介したいと思います。
2.今回の活動報告は、フィールドワーク研修を予定していた西粟倉村(にしあわくらそん)についての学習です。
西粟倉村は、周辺の市町村が大型合併していく中で、市町村合併を拒否しました。ここから西粟倉村の先進的な取組がはじまります。日弁連が作成した「平成の大合併を検証し、地方自治のあり方について考える」シンポジウム報告書を学習しました。平成の大合併をした市町村よりも、合併を選ばなかった市町村の方が人口減少の減少率が低いことが明らかになっています。
西粟倉村は、将来ビジョンとして、「百年の森構想」を打ち出し、2013年に「環境モデル都市」に選ばれ、次の年に「バイオマス産業都市」の認定をうけました。「地域経済の活性化には地域資源を利活用することが最重要」との認識がこの構想にはあります。従来型の地域経済の活性化は「企業誘致による外来型開発を中心」に置かれています。外来型開発が中心の考え方のなかで、新しい地域経済を構築する考えとして「百年の森構想」は村の基本理念となっています。
地元森林資源を地域資源として徹底的に利活用することで地域経済の活性化をはかっています。市場中心に木材を販売することからの転換です。地元で原木加工、製材所などをつくって、木材を販売する方が地元へ資金が循環します。B材、C材などの間伐材も積極的に搬出し、村内の木質バイオマス薪ボイラー、チップボイラーでの熱エネルギー供給につなげています。
西粟倉村のローカルベンチャーであるエーゼロのある廃校になった小学校に入居しているベンチャー企業を学習しました。廃熱を利用することによって中山間地でウナギの養殖を小学校の体育館で行い、「森のウナギ」として全国的にも認められています。はじめは、ウナギの出荷だけであったのが、ウナギをさばいて、蒲焼にし、真空冷凍パックにして出荷し、地域内での雇用を増加させ、お金を循環させています。森の学校のほかに、帽子屋さん、レストラン、お酒の訪問販売などのベンチャー企業が集積しています。このローカルベンチャーが人口増加の原動力となっています。
ローカルベンチャーでは、移住定住促進、小さな行政を進める、「関係人口」の拡大などをすすめています。従来、地方自治体が定住促進、地域での雇用増加を政策的に進めていますが、西粟倉村では、ローカルベンチャーが事業計画を作成し、地域で事業を起こしており、民間でやるべきことと行政がやるべきことをうまく区別していると考えられました。
ローカルベンチャーの「森の学校」では、薪を生産しており、含水率の検査(薪の中に水分があまりにも多いと失火などのトラブルとなります)も自らで行いながら薪を出荷しています。出荷された薪は、村内の温泉施設での薪ボイラーの燃料として活用されています。「エネルギーの地産地消」を学習することができました。
最後に、西粟倉村は中山間地であり、森林資源が豊富であるとともに、1966年から小水力発電も行っています。2004年JAから村に移管され、発電出力は280kWで、村の必要電力の20~25%をまかなえる量になっていますが、FITで全量を中国電力に売電しています。村の自然エネルギーによる地域資源の利活用はミニ水力発電が出発点といえます。地域資源である間伐材を利用したチップでの木質バイオマスボイラーによる、地域熱供給も学習しました。太陽光発電、小水力発電、木質バイオマス発電など個々の点、線ではなく、これから中山間地では、点―線―面と地域全体での循環型自然エネルギー社会の構築の可能性を学習しました。
活動報告3
2021/02/04
3.「脱炭素社会」の宣言と自然エネルギー生産を基盤とした地域経済循環の構想
安倍政権では「脱炭素社会」を明確にしませんでしたが、2020年9月16日に誕生した菅政権は、「脱炭素社会」を宣言し、2050年にカーボンニュートラルの方向性を打ち出しました。
そこで、2020年12月25日に『経済産業省は、関係省庁と連携し、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定しました。この戦略は、菅政権が掲げる「2050年カーボンニュートラル」への挑戦を、「経済と環境の好循環」につなげるための産業政策です。』
あらかじめ、受講生に2021年1月25日の講義前にこの「グリーン成長戦略」についてレポートを作成し、提出してもらいました。それを踏まえて、経産省の「グリーン成長戦略」の問題点を議論しました。石炭火力発電所の廃止について明示はせず、「燃焼してもCO₂を排出しないアンモニアは、石炭火力での混焼など、水素社会への移行期では主力となる脱炭素燃料である」として、石炭火力にアンモニアを混焼させ実証実験しようとしています。
経済産業省の産業政策という性格から、産業別にカーボンニュートラルを目指し、数十年後の産業のイノベーションを前提としています。「水素発電は、選択肢として最大限追求していく」としています。産業別にカーボンニュートラルを目指す方向ではなく、環境省は、西粟倉村、下川町などを参考に「2018年4月に閣議決定した第五次環境基本計画では、国連「持続可能な開発目標」(SDGs)や「パリ協定」といった世界を巻き込む国際的な潮流や複雑化する環境・経済・社会の課題を踏まえ、複数の課題の統合的な解決というSDGsの考え方も活用した「地域循環共生圏」を提唱しました。「地域循環共生圏」とは、各地域が美しい自然景観等の地域資源を最大限活用しながら自立・分散型の社会を形成しつつ、地域の特性に応じて資源を補完し支え合うことにより、地域の活力が最大限に発揮されることを目指す考え方」です。
環境省の「地域循環共生圏」は地域資源を最大限活用した面的な取り組みによるカーボンニュートラルの方向です。経済産業省は産業軸という縦型でのカーボンニュートラルで、環境省は、地域という横型で産業連関を踏まえたカーボンニュートラルだとわかります。
最後に、「地域循環共生圏」の具体化を目指すに当たって、地域内の資金の流れがどのようになっているか、環境施策等の実施によりそれがどう変化するかを把握することが重要であり、「地域経済循環分析」ツールを環境省が開発しました。この「地域経済循環分析」を学生が住む地方自治体を調査し、地域でどれくらいの二酸化炭素排出量があるのか、どれくらい自然エネルギーのポテンシャルがあるのかを測定し、学生それぞれが自ら住む地域の地域資源を発掘し、「脱炭素社会」に向けての地域での取り組みをレポートとして提出しました。
従来どおりの活動が困難となる中、次年度については、新型コロナウイルス感染状況を注視しつつ、「脱炭素社会」を目指すために、これまでの活動を踏まえながら、新たな点-線-面的な地域経済循環の調査・研究方法の可能性を探ってゆきたい。