特設サイト第95回 漢方処方解説(50)温経湯

今回ご紹介する処方は、温経湯(うんけいとう)です。
この処方は、月経不順や月経困難などの月経障害や不妊、更年期障害などの婦人科疾患に用いられる処方です。その一方で、乾燥性の皮膚症状にも用いる場合があり、湿疹や指掌角皮症、アトピー性皮膚炎などにも応用されています。また、冷え症などにも用いられ、そういう点では非常に応用範囲の広い処方といえます。

温経湯

構成生薬は多く、当帰(とうき)、桂枝(けいし)、芍薬(しゃくやく)、川芎(せんきゅう)、甘草(かんぞう)、牡丹皮(ぼたんぴ)、生姜(しょうきょう)、人参(にんじん)、半夏(はんげ)、麦門冬(ばくもんどう)、呉茱萸(ごしゅゆ)、阿膠(あきょう)の12種です。
このうち、当帰や芍薬、川芎および牡丹皮は補血薬や駆瘀血薬として数々の処方に配合される生薬です。当帰や川芎、芍薬は以前ご紹介した当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)に配合され、月経異常や不妊症に用いられていますし、芍薬と牡丹皮は駆瘀血薬として知られる桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)に配合されています。また、月経痛や腹痛に用いられている当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)や冷え症やしもやけに応用される当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)、不正出血や月経過多に用いる芎帰艾葉湯(きゅうきがいようとう)ともいくつかの共通する構成生薬をもっており、婦人科疾患における諸症状の中で使い分けられています。
さらに、麦門冬、人参、阿膠などの生薬は滋純薬として、例えば皮膚や粘膜に潤いを与える作用をもつため、乾燥性の湿疹や皮膚炎に応用される所以となっています。

温経湯の応用としては、排卵障害や不妊症、黄体機能不全、月経困難症、更年期症候群などの婦人科疾患が多く、とくに不妊治療が挙げられます。不妊症に漢方薬を用いる際には、長期間に及ぶ服用となることが考えられるため、本処方のように甘草を含むものについては偽アルドステロン症による低カリウム血症・高血圧・ミオパシーなどに注意し、むくみや血圧、血液中の電解質濃度などのチェックを怠らないようにしなければなりません。また、もちろんのことですが、駆瘀血薬を含みますので、妊娠があきらかになったときには服用をやめていただく必要があります。

本処方は多彩な薬効をもち、婦人科疾患を中心に広く応用できるものではありますが、片頭痛治療に用いられる呉茱萸湯と同じく、証の合わない方にとっては非常に飲みにくい味をもっています。飲みやすいかどうかが服用可否の決め手となるところも漢方らしいところだと思います。

(2023年3月3日)

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