育て達人第193回 衣斐 大祐

モチベーション高く 画期的な抗うつ薬の開発を目指す

薬学部薬学科  衣斐 大祐准教授(神経精神薬理学)

精神医学領域ではマジックマッシュルームなど幻覚薬による抗うつ作用が近年、世界的に注目されている。幻覚作用と抗うつ作用という諸刃の刃でもある幻覚薬。幻覚作用を抑え、画期的に治療効果を高める事ができたら、患者には福音です。病態解明が難しい精神疾患の特効薬開発をやりがいととらえ、高いモチベーションをもつ薬学部の衣斐大祐准教授を訪ねました。

専門の神経精神薬理学について語ってください。やりがいや難しさも含めて。

がんや糖尿病は腫瘍マーカーや血糖値など血液成分の値などバイオマーカーが診断の手助けをしますが、精神疾患は、例えば統合失調症とうつ病とで明確な診断基準となるバイオマーカーがあるわけではありません。脳をスキャンしても分からない。医師の問診で病名がつくといった具合です。生物学的に何を追いかければいいのか分かりません。それが難しいところですが、半面、何も分かっていないからこそ面白いとも言えます。

なるほど。

うつっぽい、と言っても統合失調症を診断されたりします。統合失調症の中でも、いろいろな患者さんがいます。それに対する薬は、何が効くか分かりません。薬の選択肢を広げるのが私たちの役割です。

関連サイト

https://www.meijo-u.ac.jp/news/detail_22164.html

https://www.meijo-u.ac.jp/news/detail_23777.html

時節柄、「コロナうつ」が話題になっています。うつ病とその薬物治療について教えてください。

うつ病の発症機構は未だ詳しくは分かっていませんが、例えば他者とのインタラクション(交流)などの減少によって引き起こされる海馬の神経新生の低下は、うつ様行動に関わると考えられています。病因・病態も詳しい事は分かっておらず、その治療は難しいのが現実です。抗うつ薬を飲み始めてから効くまでに数週間から数カ月かかります。この間に、飲みたくなくなったり、自殺をしたり。このタイムラグの原因は分かっていません。古くから麻酔薬として使われてきたケタミンが、即効かつ持続的な抗うつ作用を示すことが明かになりました。画期的な新規うつ病治療薬として、コロナで最近よく見聞きする米国食品医薬品局(FDA)によって使用が承認されました。日本ではまだ臨床試験段階ですが。

ニューヨーク時代の思い出を聞かせてください。

物価が高くて。妻が妊娠していたのですが、医療費もめちゃくちゃ高く、親に借金したほどです。マンハッタンのstudioと言われるワンルームの部屋に住んでいましたが、家賃が月20万円から25万円でした。日本がどれだけ恵まれているか分かりました。

楽しめましたか。

大リーグのヤンキースに黒田博樹投手や田中将大投手がいたころで、ヤンキースタジアムによく野球を見に行きました。セントラルパークの散歩も楽しみでした。とにかく有名人が多い街で、妻はブロードウエーで俳優のオーランド・ブルームからサインをもらいました。研究室の友人はポップスターのマドンナも見かけたと言っていました。

研究者としての転機はありますか。

日本学術振興会特別研究員PD(博士学位取得者)になれたことです。大学院博士課程を出てPDが取れなかったら薬剤師になろうと考えていました。PDを取って、研究者としてちょっとはできると自信をもちました。申請書は何回も何回も見直し、推敲しました。

学生にはどのように教えていますか。

学生を指導する衣斐大祐准教授

学生を指導する衣斐大祐准教授

学生にはそこそこ厳しい先生だと思いますが、なるべく興味を持ってもらえるようにしています。有名人が覚せい剤事案で逮捕されると、覚せい剤とドーパミンの作用を話題にします。神経ガスのサリンだと、アセチルコリンに話を展開します。事件事故に関連させると、記憶が定着すると考えるからです。論理的な思考と課題解決能力を身につけてほしいと願っています。学生の成長を見るのはうれしいものです。

どのような薬剤師を育てようとしていますか。

薬剤師が増えて飽和状態になることを見据え、名城大学出身の薬剤師が生き残るためにどうしたらいいかを日ごろから考えています。科学的な視点をもち、課題解決能力のある薬剤師なら活路を見いだせるはずです。

新入生にメッセージをください。

たくさん友人を作り、遊び、いっぱい勉強してください。薬剤師になることだけを目標にせず、研究者になったり、医療行政に携わったり、製薬会社に就職したり、いろいろな選択肢をもってください。

座右の銘を色紙に書いてください。

留学を決意させた恩師の言葉を色紙に書いた衣斐大祐准教授

留学を決意させた恩師の言葉を色紙に書いた衣斐大祐准教授

恩師の鍋島俊隆元本学教授からよく言われたのですが、「モチベーションが高まるところへ行け‼」です。国内にとどまって研究するか、アメリカに渡ってチャレンジするか。不安でしたが、その言葉に背中を押され、留学を決意しました。30歳の時です。

関連サイト

https://www.meijo-u.ac.jp/news/detail_24292.html

趣味や気分転換法、好きな場所を教えてください。

同郷岐阜県大垣市の矢橋六郎が制作した大理石モザイク壁画「薬と生命」の前で

同郷岐阜県大垣市の矢橋六郎が制作した大理石モザイク壁画「薬と生命」の前で

小学1年生の長男、幼稚園児の次男と遊ぶことです。小牧山など小さな山に一緒に上ります。平和公園も歩きます。平和公園は飽きません。セントラルパークに通じるものがあります。

この際、発信したいことがあればどうぞ。

実験用のマウスを手にする

実験用のマウスを手にする

マジックマッシュルームに含まれるシロシビンの抗うつ薬としての薬効を研究しています。強い幻覚作用を示すことから、世界中で使用が厳しく規制されていますが、最近の臨床研究から治療抵抗性うつ病に対して即効かつ持続的な治療効果を示すことが報告されました。ケタミン同様、うつ病の革命的な治療薬として世界中で臨床研究が進められており、私たちの研究室でもマウスを使って幻覚作用と抗うつ作用の発現メカニズム解明を目標に研究を進めています。

衣斐 大祐(いび・だいすけ)

1980年、岐阜県大垣市生まれ。2008年、名古屋大学大学院医学系研究科博士後期課程修了。博士(医学)。2012~2015年、アメリカ・ニューヨークのマウントサイナイ医科大学博士研究員。2015年、名城大学薬学部助教、2019年、同准教授。日本薬学会、日本薬理学会、日本神経精神薬理学会などに所属。2018年度日本薬学会薬理系薬学部会奨励賞、2020年度日本神経精神薬理学会学術奨励賞などを受賞。

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