特設サイト第2回 なんでも「漢方」って呼ばないで

先日、とあることで、「薬膳」という言葉の由来や意味を調べておりました。
手元にある国語辞典には「薬膳」という言葉は記載されておらず、まず「?」。

図書館に行って広辞苑を開くと、さすがに記載があり、曰く、「漢方薬と食材を組み合わせた中国料理。健康増進、病気の予防と治療、延寿を図る」と(広辞苑第6版、岩波書店)。
これを見た瞬間、またもや「?」。

なんでしょう、この違和感...。

一つ目の「?」は、「薬膳って古くからある言葉ではないの?」という疑問です。
これは、調べて行くうちに、茨城大学人文学部の真柳教授の著作に行き当たり、「薬膳」という言葉は近年になって中国で流行した用語で、初出は1982年だということがわかりました。なるほど、1975年版の国語辞典に載っていなかった理由が明らかとなりました。

二つ目の「?」は、「漢方薬」と食材を組み合わせた「中国料理」という記載です。
漢方とは、中国伝来の医学が日本で独自に発展したものであり、日本固有の医学と定義されます(「漢方GMP解説(1988年度版)」、厚生省薬務局監視指導課監修)。そもそも、江戸時代後期にオランダ医学が伝来し、それまでの在野の医学と区別するためにオランダ医学を「蘭方(らんぽう)」と呼び、それに呼応する格好でそれまでの医学を「漢方」と称したものとされています。現在の中国医学(「中医学」と呼びますが)とより明確に区別するために、日本漢方と呼ぶこともある伝統医学なのです。
つまり、「?」の中味は、「日本の伝統医学のくすりと食材を組み合わせた中国の料理って何?」ということでした。
これは、まだまだ漢方に関する用語への認識があまいということだと思います。

先日も新聞やTVのニュースで、「アトピー性皮膚炎治療に使われた漢方クリームにステロイドが入っていた」という騒動があり、商売柄、気になってよく調べたところ、中国人医師から紹介された外用剤に、表示されることなくステロイド成分が混入されていたということでした。故意かどうかは定かではなく、ここではそれについては議論しません。ここで指摘したいポイントは、中国の工場で生産された生薬配合剤を「漢方薬」と呼ぶのではなく、「中製薬」あるいは「中医薬」と呼ぶべきだということです。「漢方薬」と名乗っていいのは、漢方医学の理論に基づき、日本で製造されたものだけです。

私たちの暮らしに定着した言葉を正しく使うように直すのは難しいことかもしれません。しかし、曖昧なままにしておくことはよくないのも確かです。
「薬膳」という言葉を最初に用いた北京中医薬大学の先生も、のちに「薬膳」と称してむやみやたらと生薬を料理に加えて効能をうたう風潮に困惑したそうです。

言葉は正しく使いましょう。

  • ボタンの花3種
    薬学部の新1号館前に置いたプランターで咲いたボタンの花3種です。
    その根の皮を生薬(牡丹皮)として用い、駆?血(くおけつ)薬として婦人病に用いられています。

(2014年5月26日)

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