特設サイト第10回 ヘビーローテーション

  • 甘草(かんぞう)(全形生薬)
    甘草(かんぞう) -全形-
甘草(かんぞう)(切断生薬)

漢方調剤用の生薬刻みとしての甘草(かんぞう)

漢方薬に配合される生薬の〝ヘビロテ〟と言えば、「甘草(かんぞう)」です。  現在、厚生労働省承認漢方処方は294処方を数えますが、「甘草」はそのおよそ7割に使われています。 「甘草」は、マメ科のウラルカンゾウやスペインカンゾウの根およびストロン(匍匐(ほふく)茎)を用いるもので、主成分としてグリチルリチン酸という化合物を含みます。乾燥生薬1グラムあたりグリチルリチン酸2.5パーセント含有するものを医薬品として認めていますので、結構な量を摂取していることになります。

この「甘草」は、後漢の時代に編纂された処方集である「傷寒論(しょうかんろん)」においてのべ70処方に、また「金匱要略(きんきようりゃく)」ではのべ88処方に配合されており、3000年の長きにわたって使われ続けています。その効能は、「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」によれば、「五臓六腑の寒熱邪気を主り、筋骨を堅じ、肌肉を長じ、力を倍す。金創腫、毒を解く」とされ、現代医学的には「胃腸機能を整え、緊張をとる。肺の津液(しんえき)(※1)を補い、鎮咳去痰(ちんがいきょたん)する(※2)。薬物・食物の中毒を解毒し、配合される他の生薬の調和をとる」と解釈されています。
主成分であるグリチルリチン酸は、わが国で注射剤として肝炎治療薬に用いられるほか、欧米では胃潰瘍の薬として用いられ、またいろいろな分野で抗炎症作用を期待して応用されております。目薬や歯磨き粉、シャンプーなどにも配合されていますので、お買い求めの際にパッケージをご覧ください。
また、この成分はショ糖の約150倍もの甘さをもつことが知られており、天然の食品添加物としての利用もあります。九州地方の醤油が甘いのは、このグリチルリチン酸が入っているからです。他にも、欧米のお菓子であるリコリスやポテトチップスなどにも入っており、私たちの暮らし自体にとても馴染みのある化合物です。

八事キャンパスの甘草

八事キャンパスの甘草

重要生薬である「甘草」ですが、現在のところ日本ではすべて輸入に頼っており、その大半は中国からの野生品です。近年、中国では採掘制限や輸出制限が高まっており、薬用植物においても自給率の低いわが国では栽培に関する取り組みも多くなされています。大手ゼネコンが大学や国の研究機関との共同研究で、「甘草」の水耕栽培に成功したというニュースもありました。栽培品の野生品に対する同等性を担保し、早く自給体制にもって行きたいものです。

(※1)体内にある「血」以外の正常な液体のことで、唾液・胃液・涙や現代医学でいうリンパ液なども「津液」に含まれます。体の乾きを潤し、関節の動きをスムーズにします。

(※2)咳が出るのを抑えたり(鎮咳)、 痰を出しやすく(去痰)することです。

(2015年3月2日)

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