特設サイト第9回 漢方処方解説(3)麻黄湯

  • 麻黄湯(左から、麻黄、杏仁、桂皮、下に甘草です)
  • 麻黄湯(左から、麻黄、杏仁、桂皮、下に甘草です)

先月に続き、インフルエンザが猛威をふるっています。
現在の流行型は香港A型だそうで、今季のワクチンは大当たりのはずですが、私たちの免疫システムも体調次第ですから、ワクチンの効果を得るにも、十分な食事と睡眠を取るなど、普段から規則正しい生活を送ることが大切です。

インフルエンザにかかったら、タミフルやリレンザ、イナビルといった、いくつかのインフルエンザ薬があります。どれも症状が出始めてから48時間以内に服用を始めれば、発熱期間が1日か、2日短縮され、鼻やのどからのウイルスの排出量も減少しますが、48時間以上経過した後服用を始めた場合には十分な効果は期待できません。
また、小児や未成年者では、服用後に異常行動が出現するおそれがあることから、服用後一人にしないよう配慮することも望まれています。

漢方薬にもインフルエンザ治療に用いられる処方はいくつか存在し、麻黄湯(まおうとう)や銀翹散(ぎんぎょうさん)、葛根湯(かっこんとう)、葛根湯加川?辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)などが使われています。

そこで、今回は麻黄湯のお話です。

麻黄湯は、主薬である麻黄(まおう)に桂皮(けいひ)、杏仁(きょうにん)、甘草(かんぞう)を加えた処方です。4つの生薬からなるシンプルな処方ですが、その使用に際しては、いろいろと注意しなければならない重要処方です。

出典である「傷寒論」に、「太陽病、頭痛、発熱、身疼(しんとう)、腰痛、骨節疼痛、悪風(おふう)、汗無くして喘するものは、麻黄湯之(これ)を主(つかさど)る」と記されており、感冒などの発熱性感染症初期(太陽病)で、頭痛、発熱、身体痛、腰痛、関節周囲の痛み、風に当たると悪寒がする、汗が出ない、のどがゼイゼイいう、などといった症状をの改善を目標とします。
高熱や寒気、筋肉や節々が痛いという症状はインフルエンザの初期症状とよく似ていますが、汗が出ない方が対象です。服用すると発汗し、熱が下がります。そこで服用は終わりにし、発汗し過ぎないようにします。最初から汗をかいている場合には、発汗過多に陥ることを避けるため、麻黄湯の服用は勧められません。また、比較的頑健な方が対象となり、そのためか小児に使用する機会が多く、高齢者にはあまり用いません。さらに、胃腸の弱い方には不向きです。
発汗の有無や胃腸虚弱の場合には不向きだというのは、主薬である麻黄によるものです。麻黄の主成分であるエフェドリンは、気管支拡張薬として感冒薬に配合されていますが、元来の作用として交感神経興奮作用があり、そのため発汗作用などがあるものの、行き過ぎると発汗過多や動悸、頻脈(ひんみゃく)(※1)、不眠などの副作用を引き起こします。また、虚血性心疾患や不整脈、重症高血圧や高度腎障害、甲状腺機能亢進(こうしん)症の患者さんでは、症状を増悪(ぞうあく)(※2)させたり、副作用が現れやすくなったりすることがあるので注意が必要です。漢方の風邪薬がドーピングの対象となるのも、この麻黄やエフェドリンの交感神経興奮作用が問題となっているのです。
また、構成生薬の甘草も偽アルドステロン症という副作用を引き起こすことが知られており、むくみや血圧上昇などの症状が出ることがあるので、気をつけないといけません。

さて、麻黄湯のインフルエンザに対する有効性についてですが、いくつかの興味深い臨床研究があります。小児における有用性をタミフルと比較した試験が行われ、タミフル単独よりも発熱期間が短縮したという結果があります(タミフル単独で24時間、タミフル+麻黄湯で18時間、麻黄湯で15時間)。
一昨年、私もイナビルと麻黄湯のお世話になりました。

まずは、規則正しい生活を心がけることです。

(※1)心拍数の増加

(※2)それまでに比べて症状が悪化すること

(2015.1.22)

  • 情報工学部始動
  • 社会連携センターPLAT
  • MS-26 学びのコミュニティ