特設サイト第97回 漢方処方解説(52)柴胡桂枝乾姜湯

今回ご紹介する処方は、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)です。

疎経活血湯

以前、ご紹介した小柴胡湯や柴胡桂枝湯、柴胡加竜骨牡蠣湯などとともに「柴胡剤」に属し、一連の処方の中ではもっとも「虚(きょ)した」状態(虚弱な方)に用いるとされます。 名称がよく似た柴胡桂枝湯は、柴胡(さいこ)、半夏(はんげ)、黄(おうごん)、甘草(かんぞう)、桂皮(けいひ)、芍薬(しゃくやく)、大棗(たいそう)、人参(にんじん)、生姜(しょうきょう)からなり、小柴胡湯と桂枝湯の「合方」と言えます。そのため、古典的には急性発熱性疾患で、2つの処方の適応症状が混在するような状況に用いるとされ、頭痛、発熱、悪寒があり、自然発汗が認められるなどの「表位」の症状があり、咽喉痛や「口が苦い」などの口腔内違和感、咳嗽、喀痰などの呼吸器症状や嘔気・食欲低下などの胃炎症状など「裏位」の症状もある場合とされています。風邪をひいたかなと思ってから、少し症状が進んでしまった場合に当たるのではないでしょうか。

一方、柴胡桂枝乾姜湯は、柴胡、黄という「柴胡剤」ならではの組み合わせに、楼根(かろこん)、桂皮、牡蛎(ぼれい)、乾姜(かんきょう)、甘草が配合された意外にシンプルな処方となっています。楼根は、キカラスウリまたはオオカラスウリの根を用いる生薬で、解熱作用や止渇作用をもち、潤す作用をもつと考えられています。牡蛎は、カキの貝殻を乾燥させたもので、鎮静や制酸、止渇作用をもちます。この処方も感染症や発熱性疾患に用いる場合には、長引く微熱や発汗傾向、咳嗽や息切れなどを目標とするとされますが、興味深いのは慢性疾患に用いる際に、不眠などの精神神経症状に用いるところです。動悸や肩こり、寝汗、手足の冷えなども使用目標となるようで、抑うつや不安、冷えのぼせなどを認める場合にも有効であったという記録も残されています。

この処方は、昨年、第十八改正日本薬局方の第一追補に収載されたものであり、私自身あまり詳しくない処方でした。まさに、「柴胡桂枝湯と同じようなもの」とか「柴胡桂枝湯に乾姜が入ったもの?」と早合点していたこともあり、あらためて漢方薬の奥深さ、おもしろさを思い知らされた気がしています。

(2023年5月8日)

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