特設サイト第102回 漢方処方解説(54)越婢加朮湯

越婢加朮湯

今回ご紹介する処方は、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)です。
構成生薬は6つで、麻黄(まおう)、石膏(せっこう)、朮(じゅつ)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)です。朮は、出典元の「金匱要略(きんきようりゃく)」では白朮(びゃくじゅつ)ですが、流通しているエキス製剤では蒼朮(そうじゅつ)が用いられています。本処方は、その名のごとく、越婢湯に朮が加わったもので、利水作用が増強されたものと考えられます。
この処方は、実証で、体表部の熱は明らかではないけれど、身体の深部に熱感があり、体表部や関節の浮腫、腫脹、疼痛を訴えるものが適応とされます。身体の深部に熱があるために冷たい水を飲みたがるものの、尿量が減少するなど、水分バランスの失調を治す処方と言えます。

麻黄(まおう)が配合されますので、普段から胃腸が丈夫な方(つまりは実証)の水滞、すなわち浮腫の治療に用いられてきましたが、現在ではその他に関節炎や湿疹にも用いられています。変形性関節炎や関節リウマチに用いる場合には、関節周囲の熱感や腫れ、痛みなどを目標とし、湿疹や皮膚炎に用いる場合には皮膚粘膜の炎症が強く、充血や腫れ、浮腫または浸出液などがあることが目標となります。今年になって、アトピー性皮膚炎の痒みに頓服で用いるという事例を聞きましたが、とても興味深い応用だと思いました。

また、本処方に附子(ぶし)を加えると、越脾加朮附湯(えっぴかじゅつぶとう)という処方になり、さらに新陳代謝が低下し、冷えや疼痛の強い方にという処方に変化します。また、「傷寒論(しょうかんろん)」には桂枝湯と越脾湯を2対1の割合で組み合わせた桂枝二越脾一湯(けいしにえっぴいちとう)や桂枝二越脾一湯加朮附(けいしにえっぴいちとうかじゅつぶ)、さらに桂枝越脾湯(けいしえっぴとう)などの処方もあり、どちらかというと虚証の方の感冒や筋肉痛、関節の腫れや痛みの治療に用いられる処方へと展開されています。

漢方方剤は、構成生薬の組み合わせを少し変えることでも、その適応が思わぬ方向に変化したり、広がったりするので、反ってその使い分けが難しいという声を聞きますが、利水作用を増強しようとか、温める作用を加えようといった工夫は言わば単純なものであり、意外と腑に落ちるのものだと思います。

(2023年10月6日)

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