特設サイト第99回 漢方処方解説(53)茯苓飲

今回ご紹介する処方は、茯苓飲(ぶくりょういん)です。

疎経活血湯

構成生薬は、茯苓(ぶくりょう)、朮(じゅつ、ソウジュツでもビャクジュツでも可)、陳皮(ちんぴ)、人参、枳実、生姜の6つです。この処方は「金匱要略(きんきようりゃく)」を出典とし、体力中等度で、吐き気や胸やけ、上腹部膨満感があり、尿量減少するものの、胃炎や神経性胃炎、胃腸虚弱や胸やけに用いるものです。以前ご紹介した人参湯(にんじんとう)から甘草を除き、陳皮と枳実、生姜を加えた処方であり、胃液を吐くといった「溜飲(りゅういん)」のある方に用いるとよいとされます。よく耳にする「溜飲を下げる」というのは、「不平不満、恨みなどを解消して、気を晴らすこと」を表し、心の中のわだかまりが消え、気持ちがすっきりしたときなどに使う言葉で、「我慢していたことを打ち明けて溜飲が下がった」というように使われます。「溜飲」というのは、胃液が逆流してくる様子を示す表現だったのですね。

茯苓は、サルノコシカケ科のマツホドの菌核を用いる生薬ですが、朮と協働して胃に留まる水(「胃内停水」といいます)を捌き、人参は胃の機能を高め、陳皮や枳実は苦味健胃薬として働くとともに、理気剤として気の巡りをよくしてくれます。生姜も芳香性健胃薬ですし、人参とともに胃を温めることにも貢献しています。これらの生薬が協力して胃内停水をとり、ガスを消し、食欲を高めて、胃の停滞感を取り除きます。いわゆる機能性ディスペプシアや逆流性食道炎(胃食道逆流症)などに応用されています。

また、この処方にはいくつかの加味方があり、吐き気や胸やけが強い場合には、半夏(ハンゲ)を加えた茯苓飲加半夏(ぶくりょういんかはんげ)がありますし、同じく胃など上腹部の不快感や膨満感などがあり、さらに不安感やのどの異物感・閉塞感、息苦しさなどを訴える場合には半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)との合方剤である茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)が適応となります。他にも、類似した症状に用いることができる六君子湯(りっくんしとう)や半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)などもありますが、これらはガスがたまるといった膨満感がない場合に用いられるといった鑑別があるようです。

胃の不調はいろいろな症状があります。また、原因としても、普段から弱いということもあれば、暴飲暴食や脂っこい食事やお酒、さらには飲酒などによることもあります。漢方薬には、いろいろな症状や原因に合う処方がいくつもありますから、それらを上手にお使いください。

(2023年6月30日)

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