特設サイト第133回 漢方処方解説(76)柴胡清肝湯

今回ご紹介する処方は柴胡清肝湯(さいこせいかんとう)です。
前回の当帰飲子に引き続き、アトピー性皮膚炎にも応用されている処方ですが、そもそもは「いわゆる癇の強い若年者の湿疹や慢性扁桃腺炎など」に応用されてきた処方です。
この処方は明代16世紀以降にできたものとされていますが、その構成生薬には数多くのバリエーションがあり、例えば薛己(せつき)が「補注明医雑著(ほちゅうみんいざっちょ)」(1551年)に記した柴胡清肝湯は2種類あるそうで、その一つは柴胡、黄芩、黄連、山梔子、当帰、川芎、地黄、牡丹皮、升麻、甘草の10味からなり、もう一つは柴胡、黄芩、人参、山梔子、川芎、連翹、桔梗、甘草の8味からなるものです。前者の効能としては頚部リンパ節炎や女性の月経不順などが挙げられており、後者では皮膚炎や耳周辺のリンパ節炎、体幹から下肢、胸、乳腺、下腹部、体側両側に至る病変に用いるとされており、微妙に異なります。

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漢方一貫堂の書籍に記載された「柴胡清肝散」の記述

一方で、臨床現場で用いられている柴胡清肝湯エキスは明治後期から昭和初期に活躍された漢方医である森道伯(1867-1931年)が創出したもので、15味の生薬からなります。森道伯先生が中心となった流派は一貫堂(いっかんどう)と称し、病人を3つの体質に分類して治療方針を定めています。一つ目は、まず婦人に多く認められる微小循環障害を特徴とする「瘀血証体質」が挙げられ、通導散を代表処方として治療するとされます。つぎに二つ目は風毒・食毒・水毒などが体内に蓄積し、肥満や高血圧など生活習慣病を起こしやすい「臓毒証体質」で、防風通聖散を代表的な処方として用います。そして、第3に扁桃腺炎や瘰癧(結核性頚部リンパ節炎)などの感染症に罹患しやすい「解毒証体質」があり、これに対してもちいる代表的な処方が柴胡清肝湯です。 一貫堂では「解毒証体質」に対して、四物黄連解毒湯(当帰、芍薬、川芎、地黄、黄連、黄芩、黄柏、山梔子、連翹、柴胡)を基本とする処方をもって治療するとし、この10味に括桜根(かろこん)、桔梗、牛蒡子(ごぼうし)、薄荷、甘草の5味を足して柴胡清肝湯を構成しています。解毒証体質の小児はかぜにかかりやすく、また扁桃腺をも併発しやすいとか、気管支炎を容易に起こしやすいとかといった特性をもつので、柴胡清肝湯を服用することで、これらの疾患を起こしにくくすることを目標としています。

柴胡清肝湯は、癇が強く、腺病質(体格が貧弱で、リンパ節が腫れやすく、感染症やアレルギーにかかりやすい、虚弱で神経質な体質をいう)と呼ばれた小児の炎症性疾患に広く応用できる処方と考えています。なお、一貫堂では小児にはこの柴胡清肝湯をと考えますが、青年期には荊芥連翹湯の、また女性や泌尿器疾患の場合には竜胆瀉肝湯の適応となることが多いと考えています。

いろいろな考え方があるところが漢方療法の興味深いところです。

(2026年4月24日)

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