特設サイト第132回 漢方処方解説(75)当帰飲子
今回ご紹介する処方は当帰飲子(とうきいんし)です。
本処方は慢性湿疹に用いる漢方薬の一つで、アトピー性皮膚炎にも応用される処方の一つでもありますが、乾燥傾向で痒みを伴う湿疹に有用と言われ、老人性皮膚掻痒症に応用される処方です。
漢方医学の古典的な考え方からは「血燥(けっそう)」とよぶ状態が使用目標とされていますので、血液の循環障害があり、それが長く続くことで皮膚粘膜が乾燥して萎縮するような状態に有益とされます。皮膚の血色が失われ、乾燥してしわがよってしまい、弾力性もない、そんな状態が考えられます。
構成生薬は、当帰(とうき)、芍薬、川芎、蒺藜子(しつりし)、防風、地黄、何首烏(かしゅう)、荊芥、黄耆、甘草の10種で、このうち当帰、芍薬、川芎、地黄の4種は「四物湯」の構成生薬ですから、「血虚」を治す基本処方が中心に座っていると考えることができます。この四物湯に防風、何首烏、黄耆、荊芥、甘草、蒺藜子が加味されています。防風や荊芥は「去風薬」として皮膚疾患に応用される荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)や十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)に応用されている生薬です。黄耆は人参と同様に補気薬の代表的生薬ですし、皮膚の固摂を整え、汗が漏れるのを止めるはたらきをもちます。聞きなれない珍しい生薬としては何首烏と蒺藜子があるのではないでしょうか。
何首烏はタデ科のツルドクダミの塊根を用いる生薬で、アントラキノン類やフラボノイドを含みますから瀉下作用をもつのですが、補血薬としてもはたらき、髪やひげを黒くする作用をもち、また強壮作用もあるとされます。また、肝障害の副作用も報告されていることが知られています。蒺藜子はハマビシ科ハマビシの果実を用いる生薬で、精油やフラボノイドを含有し、利尿や消炎作用をもつことが知られています。少し珍しいところで目疾患の改善作用があり、当帰飲子のほか洗肝明目湯(せんかんめいもくとう)という目の充血や乾燥、角膜炎や結膜炎に応用される処方にも配合されます。
当帰飲子は慢性に経過する湿疹で、分泌物が少なく、乾燥性で「かゆみ」を主訴とするものに用いることが多い処方です。高齢者に処方することが多いと言われますが、皮膚局所の炎症は軽微で、皮膚の乾燥や萎縮傾向が認められるときには若年層にも応用できるとされています。皮膚の炎症が強く、真っ赤に腫れているようなものには不向きであるとも言われます。乾燥性で、皮膚がシワシワとなり、痒みが強い湿疹の場合は一度お試ししてはいかがでしょうか。
何首烏(かしゅう)
蒺藜子(しつりし)
(2026年3月27日)


