特設サイト第129回 冷えと漢方処方

朝晩、冷え込むことが多くなってきました。通勤・通学時に手袋やマフラーが欠かせないという方も増えているのではないかと思います。そこで、よく聞く「冷え」について、漢方医学的な考え方と代表的な処方を紹介したいと思います。
漢方医学では、私たちの生命活動を支えるものとして「気」「血」「水」があり、それらは五臓六腑を通して生産され、からだを巡っていると考えています。
「気」のはたらきの一つにはからだを温める「温煦(おんく)作用」があり、それに対して「血」や「水」はからだを冷ますはたらきがあるとされています。いわゆる陰陽論によって「気」「血」「水」のはたらきを考えると、「気」は陽の、「血」と「水」は陰のはたらきをしているということですね。
外界から「寒さ(=寒邪)」や「冷え」に侵襲されると、われわれのからだでは「気」の巡りが阻害され、それにより「血」や「水」の停滞を招きます。それは、「気」にいろいろなものを動かす「推動(すいどう)作用」というはたらきがあるからで、「気」の機能が低下すれば、自然と「血」や「水」の巡りも悪くなるという考え方です。

そこで、「冷える」原因に対しては「温める」薬を、またそれによって「気」の巡りが悪くなれば、それを改善する薬(理気薬、行気薬)を使いますし、「血」が停滞すれば、駆血薬を、「水」が停滞すれば、利水薬を用います。生薬としては、血行不良による冷えを治す桂皮(けいひ)や当帰(とうき)を用いますから、処方としては桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん、第37回)当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん、第47回)などがよいでしょう。「気」の巡りの悪さを感じれば、加味逍遙散(かみしょうようさん、第25回)もよいと思います。

桂皮

桂皮(けいひ)

当帰

当帰(とうき)

さらに、血行不良による冷えに加えて疼痛も感じる場合には、山椒(さんしょう)や呉茱萸(ごしゅゆ)などが有効で、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう、第54回)温経湯(うんけいとう、第95回)大建中湯(だいけんちゅうとう、第6回)などがよいでしょう。

山椒

山椒(さんしょう)

呉茱萸

呉茱萸(ごしゅゆ)

水滞があって冷える場合には朮(じゅつ)がよく、防己黄耆湯(ぼういおうぎとう、第76回)などがいいです。

蒼朮

蒼朮(そうじゅつ)

白朮

白朮(びゃくじゅつ)

また、冷えが生じる場所によっての使い分けもあり、首筋の冷えには麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう、第20回)がよいとされ、みぞおちあたりの冷えには大建中湯が、またおへそのあたりの冷えには人参湯(にんじんとう、第62回)がよいとされますし、腰から下であれば、当帰芍薬散がいいと思います。当帰四逆加呉茱萸生姜湯は手足の末梢が冷え、しもやけができるような場合に有用です。
 西洋医学では「冷え症」をさほど問題視しないと言われますが、漢方治療においては重要なポイントです。また、「冷え」と「ほてり」は紙一重とか、一緒に生じるとも考えられます。例えば、「上熱下寒」と言われるように上焦(じょうしょう、上半身の意)は「ほてり」、下焦(かしょう、下半身の意)は「冷え」という病態はよく経験します。熱い「気」は上衝して「のぼせ」やすく、冷たい「水」は消化器や下半身に降りて「冷え」となるからと言われますし、それは理解しやすいのではないでしょうか。

これから寒さも厳しくなってきます。温かく過ごして、新年をお迎えください。

(2025年12月26日)

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