特設サイト第126回 漢方処方解説(73)五虎湯
「暑さ寒さも彼岸まで」とはよく言ったもので、お彼岸を過ぎたあたりから長く続いた酷暑、猛暑が影を潜め、ようやく過ごしやすくなってきました。朝晩など、なにか羽織るものでも欲しいとまで思うくらいです。でも、急に暑さがなくなると、またぶり返すのではと疑い深くなってしまいますよね?
さて、後期の授業が始まって3回の講義を終えました。毎回、コロナ感染やインフルエンザによる欠席があります。また、エアコンによる乾燥もあり、夏風邪もふくめて、痰のからまる咳が続く方も多いと思います。かくいう私も夏からずっと、わずかに痰がからみ、咳払いをすることが続いています。これまでにも、麦門冬湯や麻杏甘石湯、小柴胡湯か桔梗石膏など、痰や咳に有効な漢方処方を紹介してきましたが、今回ご紹介する五虎湯(ごことう)もその一つです。

麻黄

杏仁

甘草

石膏

桑白皮(そうはくひ)
構成生薬をみますと、麻黄、杏仁、甘草、石膏に桑白皮(そうはくひ)を加えたもので、麻杏甘石湯に桑白皮を加えた処方であることがわかります。桑白皮は、クワ科のマグワの根皮を用いる生薬で、morusinとか、kuwanon A~Hといったプレニルフラボン誘導体やトリテルペン化合物を含有します。気味としては、甘・寒に分類され、伝統医学的には「肺の炎症を鎮め、喘咳を治す。水滞・水腫を除く」というように、鎮咳、去痰、利尿、消炎の作用があるとされます。
処方としての使用目標は、粘稠な痰がからみ、これを出すために強くせき込むものや感冒の急性期のような発熱や身体の痛みがないものの、咳が出るものなどがあり、麻杏甘石湯の適応とほぼ重なります。桑白皮が加わった分だけ作用が増強されているようにも思いますが、それほどの差を感じないとする経験談もあります。
私も3月に新型コロナウイルス感染症に罹患し、抗ウイルス薬を服用したおかげで、2日ほどで熱は下がりましたが、うっすらと痰のからむ咳にしばらく悩まされました。話そうとするたびに、のどが刺激されて咳が出るといった具合に。痰の多い湿性の咳には小青竜湯、喀痰の少ない乾性の席には麦門冬湯などと言われますから、麦門冬湯を試したのですが、あまり効果はなく、やはり麻黄剤系ではないかと考えたことと少し残る痰をヒントに五虎湯を試したところ、飲んですぐに悩まされていた咳がピタッと止まり、とても驚きました。その後、二週間ほど飲み続けて完治に至り、漢方薬の奥深さというか、凄さを感じた経験となりました。ドラッグストアの漢方薬コーナーや感冒薬コーナーにありますので、もしものときにはお試しください。
(2025年10月7日)