特集世界の普及率と、日本が目指すべき未来。

キャッシュレス発展途上国の日本の"現状"と"未来"を整理する。

 政府が行う「キャッシュレス・ポイント還元事業」の推進もあり、近年「キャッシュレス決済」がぐっと身近になったという方も多いのではないでしょうか。そもそも「キャッシュレス決済」は、クレジットカードをはじめとするカード決済やECショップで買い物をした際に行われるオンライン決済、NFC搭載(※1)のスマートフォンで行うモバイル決済が中心でした。最近では「PayPay」「LINE Pay」「楽天ペイ」「メルペイ」といったサービスに代表される、「QRコード決済」が台頭。2019年10月に行われた消費税率引き上げ以降、キャンペーンやポイントにお得感を感じたユーザーを中心に、利用率を急増させていきました。

 急ピッチで進められる日本のキャッシュレス化。一方で、世界のキャッシュレス比率はどのような状況なのでしょうか。経済産業省が2018年2月に発表した「キャッシュレス化推進に向けた国内外の現状認識」によると、キャッシュレス比率は隣国である韓国が96.4%(2016年)、中国(※2)が60%(2015年)となっています。対して、日本はわずか19.8%で、アメリカやフランス、イギリスなど、他の先進国と比べてもひときわ低い数値になっています。

 例えば、キャッシュレス比率51.5%のスウェーデンでは、大手銀行が共同で開発したアプリ「Swish」により、キャッシュレス化が加速。2012年12月にサービスが開始され、2017年10月末で利用者は597万人にのぼります。これは、スウェーデンの総人口約1,000万人のうち約60%が利用している計算に(※3)。また、イギリスはキャッシュレス比率68.7%と韓国に次ぐキャッシュレス先進国で、2017年には国民に最も使用されている決済方法として、デビットカードが現金を抜いています(※4)。さらに、イギリスでは10人に1人は生活におけるすべての支払いをキャッシュレスで行なっているというデータ(※5)も。

 ではなぜ、日本は世界に比べキャッシュレス化に遅れをとっているのでしょうか。よく挙げられる理由として、「根強い現金主義」という背景があります。海外では"偽札問題"をはじめ現金を持つデメリットが複数ありますが、日本では治安の良さからほぼ、現金に対する不安はありません。さらに、「現金を扱うインフラが充実している」という点も、キャッシュレス化促進の足枷として挙げられています。日本のATMの利便性は世界的に見ても非常に高く、24時間、1日に何回でも利用が可能。他国と比べると、その機能が過剰であるとも考えられているようです。

 日本のキャッシュレス化が浸透することで、あらゆる社会的効果を生み出します。第一に、「現金流通コストの削減」は"お金のデータ化"によって得られるメリットだと言えるでしょう。また最近でも「郵便局でキャッシュレス決済を開始」というニュースが記憶に新しいように、今後さらに金融業務やサービスの効率化、自動化、省人化が進み、「労働人口減の対策」につながっていきます。もちろん、キャッシュレス決済の普及が進めば、「インバウンド需要促進」への期待も高まります。

 今後、数年はスマートフォンを中心とした決済サービスが発展していくと予想できます。さらに将来的には手のひら認証といった「生体認証技術」が発達し、財布もスマートフォンも持ち歩かずに買い物ができる時代が来るでしょう。しかし、そこに至るまでには事業者・消費者問わず誰にでも扱いやすく、かつメリットを感じられるサービスの開発が不可欠。日本がより良い社会を形成する可能性は、キャッシュレス社会の未来にかかっているとも言えるでしょう。

※1 「Near Field Communication」の略称で、至近距離で通信を行う仕組み。スマートフォンの中にあるデータを周辺機器に送受信したり、電子マネーなどの非接触型ICカードの情報を読み取って残高確認をしたりすることも可能
※2 中国については、Better Than Cash Allianceのレポートより参考値として記載
※3 出典:経済産業省「キャッシュレス・ビジョン/2018年4月」
※4 出典:UK Payment Markets Summary 2018(UK Finance)
※5 出典:One in 10 adults in UK have gone 'cashless', data shows(The Guardian)