特集金融機関の動向を主体にキャッシュレスの進展を予測

経営学部国際経営学科

高山 晃郎 先生

AKIO TAKAYAMA

2006年、九州大学大学院経済学府博士課程単位取得済退学。2009年、博士(経済学)。同大学大学院経済学研究院助手、名城大学経営学部国際経営学科助教を経て2014年より現職。専門は金融論、現在は発展途上国の金融市場を研究。日本金融学会中部部会幹事。証券経済学会中部部会幹事。名城大学柔道部部長。

キャッシュレス化による経済成長の見込みは未知数

 キャッシュレスを政府が推進する目的のひとつに、国全体の経済で考える「マクロの視点」で見た場合には"消費を伸ばし、経済成長を高める"ことにあると考えています。アメリカはキャッシュレス化を進めることで個人消費を伸ばし、経済の発展を遂げてきました。しかし金融リスクに対する考え方としてアメリカは証券重視型であり、銀行預金重視型の日本とは経済構造が違うので、同じようにうまくいくかは未知数です。また企業や家計を個々に見た「ミクロの視点」で消費者側から考えると、日本はクレジットカードや電子マネーが乱立し、利用者が何を選んだらよいか分からないという点も懸念されます。カード会社は現在、利用者の囲い込み戦略としてポイント還元や広告などで多額の資金を投入していますが、それにより企業収益が上がらなければ、キャッシュレス化自体が衰退してしまうことが考えられます。

 さらにインターネットに適応していない高齢者にとっては、キャッシュレス化にともなうスマホの利用や各種の登録はとても煩雑で面倒です。しかしその反面、スマホを使ったキャッシュレス決済の利用にチャレンジする機会が到来しているともいえます。いずれにしても、こうした課題を解決へと導くことは、今後キャッシュレス化を進める上では大切です。

 キャッシュレスには銀行に関連したクレジットカードやデビットカードと、現金チャージ型の電子マネーがあります。一般的に日本ではキャッシュレスが浸透しにくいと意見されますが、銀行中心の経済構造であるため、クレジットカードはうまく拡大しました。こうしたキャッシュレス化やフィンテック(革新的な金融商品・サービスの潮流)に関わるIC(集積回路)やICT(情報通信技術)についても、これまで銀行の運営上で利活用されていることから、あくまでも銀行先導で発展していると言えます。よって今後さらに推進されるのは、銀行にひも付いたクレジットカードと予測されます。

 また、クレジットカードから収集される膨大な情報を金融商品に利活用することが、今後の金融業界の発展を左右するでしょう。さらに近年、日本では、例えば交通系ICカードに代表されるように電子マネーの普及が顕著です。これは残高保持を大事にする日本人の考え方に、うまくマッチした結果。私自身も日常生活においては、クレジットカードのほかに電子マネーを多用します。ですがクレジットカードに比べ、電子マネーは口座から現金を引き出してチャージしなくてはならないので、多少不便を感じることも。これらの電子マネーがこれからどう変わっていくかによって、キャッシュレス化に大きく影響することも考えられます。

若者のデジタルリテラシーやインバウンド化が追い風に

 キャッシュレス化が進んでも、お金に対する価値観自体は大きく変わることはないでしょう。クレジットカードは支払いを1ヶ月先延ばしにできる利便性はありますが、口座から現金が引き落とされるという点においてはデビットカードと変わりません。さらに現金をチャージして使用する電子マネーともあまり変わらないので、やはり個人の金銭感覚に影響は少ないと思います。いずれにしても、今の若者はスマホの普及によりデジタルリテラシーに長けていることや、国のインバウンド化を理由に、さらに今後キャッシュレス化は進んでいくと考えられます。また国によっては高額紙幣の製造を廃止しているところもあります。

 現在、日本ではクレジットカード等の支払手段の多様化に大きな進展があるものの、世界と比べるとキャッシュレス化に遅れをとっています。もし高額紙幣が廃止されて小額紙幣だけになれば、必然的にATMの利用頻度が高くなり手数料がかかるという理由から、クレジットカード利用者が増加し、キャッシュレス化に拍車がかかるかもしれません。

 こうしたクレジットカード利用による情報の漏洩を心配する声もありますが、日本の情報管理はますます厳格になり、暗号化もされているので大きな問題はないでしょう。しかし、情報管理のセキュリティについては常に不安がつきまといます。これについては、状況に応じてセキュリティを強化し続けるしか今のところ方法はないと思われます。

発展途上国の金融市場の現状から見た日本のキャッシュレス化

 私は発展途上国の金融市場について研究しています。発展途上国では日本よりキャッシュレス化が進んでいます。例えばアフリカでは、電話会社や電気店などにお金を預けてスマホで送金を行うという金融システムが進展しています。このシステムが発展した背景には、貯蓄の習慣がないこと、銀行口座を持てる人が少ないこと、また口座の維持費を支払えない人が多いことや、現金は偽造や強盗などの犯罪対象になる危険性があることが挙げられるでしょう。日本とは異なるこうした金融市場を持つ発展途上国の中にも、積極的な外交を行う国やそうでない国など多様な政策が見られますが、どこも同じように経済は発展しています。その理由の探求にキャッシュレス化進展をひも付ければ、日本のキャッシュレス化促進のヒントの一端になるのではと考えます。