特集「これからの社会」を支える5G

5Gが社会課題を解決へ導く

 「超高速・大容量」「超低遅延」「多数同時接続」三つの特徴を持つ5Gの普及により、あらゆるモノがネットにつながるIoTやAI(人工知能)、VR(バーチャルリアリティー)などの活用が、幅広い業界で広がることが予想されています。これらの先端技術を駆使した自動運転、無人化、スマートシティなどが実現すれば、私たちの暮らしやビジネスは今よりも快適になり、さまざまな社会課題の解決につながるといわれています。その可能性について、理工学部 情報工学科の鈴木秀和准教授にお話を伺いました。

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理工学部 情報工学科

鈴木 秀和 准教授

Hidekazu Suzuki

2009年、名城大学大学院 理工学研究科 電気電子・情報・材料工学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。日本学術振興会特別研究員PDを経て、2010年名城大学 理工学部 情報工学科助教に就任。2015年より准教授および東北大学 電気通信研究所 共同研究員を兼務。2020年より名古屋大学未来社会創造機構モビリティ社会研究所 特任准教授を兼職。モバイルネットワーク、ホームネットワーク、スマートコミュニティ等の研究に従事。

「遠隔操作」により作業現場が変わる!建設・土木業界

 重労働や危険な作業を伴い、働き手不足が深刻となっている建築・土木業界。その解決のカギを握るのが、建設機械・重機の「遠隔操作」です。5Gの整備によって、建設機械に取り付けられるカメラが4K・8K対応となり、高精細な映像を確認しながら、離れた場所から遅延なく操作できるようになれば、運転手1人で複数の現場の建設機械を操作することも可能です。さらに、人の立ち入りが困難な場所や、災害現場での作業の安全性が高まることは大きなメリットでしょう。

田畑に行く必要がなくなる!?農業のスマート化

 ドローンによる作物の監視や、農業機械の自動化など、農作業のスマート化も5Gによってさらに広がっていくでしょう。例えば、農場にセンサーやカメラを設置し、農作物の生育状況や日々の気候などのデータを収集、AI技術を使って分析することによって、人の経験や勘に頼ってきた種まきや収穫の時期判断を自動化できます。ドローンや無人農機の細かな制御が可能になり、田畑に行って人が作業をする必要もなくなります。また、その日の売れ行きなど市場情報との統合管理が進めば、収穫量や出荷調整も可能になるでしょう。

工場では、ロボット制御や製造工程の革新が加速!

 製造業においては、「Industry4.0」と呼ばれる、生産体制の改革が進むといわれています。Industry4.0とは、ドイツから始まったとされる第四次産業革命を指すもので、その実現には、工場内のあらゆる機械設備から精緻な稼働データを収集し、解析結果を工場内の装置や設備に瞬時に反映させる通信技術が不可欠です。ここに、5Gの三つの特徴が生かされ、機械操作の自動化、AI技術による品質管理、需要予測に応じたライン変更などが実現します。また、人手不足や感染症予防を背景に人と一緒に働く協働ロボットの需要も高まっており、5Gと先端技術を活用した工場のスマート化はますます広がっていくでしょう。

高度な医療サービスを、地方や離島にも

 医師が遠隔地にある手術ロボットを操作する「遠隔手術」が注目を集めていますが、まずは映像や音声を用いて診療を行う「オンライン診療」が中心になると考えます。特に、地方や離島など、各診療科の専門医を配置できないエリアでの必要性が高まっていますよね。従来は、高精細なコンピューター断層撮影(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)の画像は大量のデータを処理するため、送受信に時間がかかるといった課題がありました。5Gのインフラが整備されることで、大容量の映像を瞬時に伝送できるようになり、地方に住む人が遠く離れた専門医の診療を受けることはもちろん、専門医と地方の医師との連携も進んでいくでしょう。

社会課題を解決し、持続可能な社会を目指すスマートシティ

 5Gの通信技術とIoTによって、あらゆるモノがネットワークに接続されるようになれば、都市全体のデジタライゼーションも実現します。自動運転をはじめ新たな技術で移動の効率化を進める「スマートモビリティ」、電力を効率よく供給して需給バランスを保つ「スマートグリッド」、先に述べたスマート農業やスマート工場など、さまざまなテクノロジーを活用し、社会基盤の効率化を図るまちづくりを進めるのがスマートシティです。
 少子高齢化、労働力不足、自然災害、インフラの老朽化、交通渋滞、環境汚染などの社会課題の解決を目指し、日本でもすでに数多くの自治体や企業で実証実験が始まっています。

 私の研究室では、5G時代を見据え、IoTを中心とする先端技術の社会実装を通じて、Society5.0※実現に向けた取り組みを実践しています。研究グループのひとつ「スマートコミュニティ」グループでは、IoT技術を活用した次世代バスロケーションシステムを開発。電子ペーパーを搭載したスマートバス停では、バスの接近・遅延状況の提供や、地域の情報、災害時情報配信スポットとしての活用も可能になっています。現在は、LoRaWANというIoT向け無線ネットワーク規格を用いていますが、5Gが普及すれば多様なデータの収集・活用が広がり、まちづくりの最適化につなげていけるでしょう。
 他にも、さまざまなIoTデバイスを高度に連携するシステムの開発や、アクセスネットワークの種類に依存することなくスムーズな通信切り替えや暗号化通信を実現する独自のネットワークアーキテクチャの開発などを行っています。

※Society5.0とは、IoT、AIなどの情報技術と既存の技術を組み合わせ、新たな製品・サービスの創出を目指す、内閣府の『第5期科学技術基本計画』にて定義された基本指針の一つです。