特設サイト第110回 漢方処方解説(61)薏苡仁湯

名古屋でも梅雨の季節が近づいています。
そろそろ今年も梅仕事を始めるときですね。

さて、今回ご紹介する処方は苡仁湯(よくいにんとう)です。エキス剤の添付文書によりますと、体力中等度で、関節や筋肉のはれや痛みがあるものの次の諸症として、関節炎や筋肉痛、神経痛に応用される処方です。明の時代の「明医指掌図(みんいししょうず)」を原典としますが、現在使用されているものは浅田宗伯の「勿誤薬室方函」を出典としています。
原典としては、いくつかの書籍が挙げられるものの、この成書を原典とするのは、浅田宗伯が引用したからでしょうか。その条文には「苡仁湯は、手足の関節炎で、疼痛、麻痺、近く低下などがあり、関節の屈伸制限されるもの」に用いるとあります。また、「乾湿痺痛には苡仁湯」とも書かれており、寒さや湿気によって悪化するものに用いるとされます。

構成生薬は、苡仁、蒼朮(白朮も可)、当帰、芍薬、麻黄、桂皮、甘草の7種です。

越婢加朮湯

苡仁は、イネ科ハトムギの種皮を除いた種子で、鳩の餌などにも用いられる食品でもあります。また、この果実はハトムギと呼ばれ、日本薬局方には収載されてはいませんが、日本薬局方外生薬規格(局外生規)には収載される生薬で、お茶としても利用されています。よく知られる効能・効果は「いぼとり」で、ドラッグストアなどでも「いぼや皮膚の荒れ」に対する単味生薬製剤として販売されています。

その他、麻黄は感冒や上気道炎に用いられる生薬ですが、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)や麻杏甘湯(まきょうよくかんとう)としても関節炎に用いられる生薬で、苦温剤として関節の水を捌くものと考えられます。また、麻黄には交感神経系の興奮作用による副作用や平素から胃の弱い方では胃部不快感や胃もたれなどの症状が出現することもあり、注意が必要です。さらに甘草も含みますから、低カリウム血症など偽アルドステロン症の症状の出現にも気をつけていなければなりません。

雨が続くと、関節が痛むという方もいらっしゃいます。
とくに、この季節にというわけではありませんが、自然界の「湿」は私たちの体の中の「湿」を増やすことがあります。雨の日に、関節が冷えて痛み、曲げ伸ばしに苦労するというような場合に試してみるのも一つです。そういう場合には、一度主治医にご相談してみてはいかがでしょうか。

(2024年5月31日)

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