特設サイト第116回 漢方処方解説(65)竜胆瀉肝湯
今回ご紹介する処方は竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)です。
この処方は、古典的には梅毒など性行為感染症の治療に用いられたものとされますが、現代医療においては比較的体力のある方の泌尿生殖器の炎症性疾患や陰部湿疹などに使用されています。エキス製剤にも「体力中等度以上で、下腹部に熱感や痛みがあるものの次の諸症」として、排尿痛、残尿感、尿のにごり、こしけ(おりもの)、頻尿を適応としています。
構成生薬は、当帰、地黄、木通、黄芩、沢瀉、車前子、竜胆、山梔子、甘草の9種類ですが(出典:「薛氏医案(せつしいあん)」)、森道伯による同名異方も存在し、その一貫堂家方・竜胆瀉肝湯(一貫堂処方)は、芍薬、川芎、黄連、黄柏、連翹、薄荷葉、防風、山帰来、薏苡仁を加えた18種のものとして使用されています。こちらの処方は、同様の症状に対して、やや慢性症となったものに用いるとされます。これらの構成生薬をみると、竜胆を除く8種の処方に茯苓、芍薬、滑石を加えたものが「五淋散」で、この処方もまた尿路感染症に用いられていますし、木通や沢瀉、車前子といった利水薬を中心とする処方だと言えます。
また、聞くところによると台湾では、「医方集解」を出典とする竜胆瀉肝湯以外にも「衛生寶鑑」を出典とする第二方があり、また違った処方内容であるとのことで、中国伝統医学のバリエーションに驚くとともに、東アジア全体で考えると、いろいろと課題も出てきそうに感じます。
そのような多様性はありますが、竜胆瀉肝湯の構成生薬上の特徴は、やはり名前が示すように「竜胆」が配合されていることです。竜胆はリンドウ科のトウリンドウの根及び根茎を用いる生薬で、セコイリドイド配糖体であるgentiopicrosideを含有し、苦味健胃薬として胃液などの分泌を高める作用が知られています。その他、解熱や利尿作用ももつとされます。リンドウ科の植物は、ヨーロッパにおいてはゲンチアナ、そして日本伝統的な民間薬としても知られるセンブリ(当薬)があり、竜胆とともに健胃薬として百草丸などに利用されていますから、お馴染みの方もいらっしゃると思います。
リュウタン(竜胆)
ゲンチアナ
センブリ(当薬)
この処方のエキス製剤は、同じ処方名でもメーカーによって構成生薬と分量が異なりますから、注意が必要です。明代の「薛氏医案」を出典とするものと一貫堂処方があり、「薛氏医案」をもととするエキス製剤でもメーカーによって甘草や山梔子、竜胆の分量が違う場合がありますので、添付文書やパッケージにある使用上の注意をよく読んでお使いください。
(2024年11月29日)