特集遺伝子組み換え農作物を取り巻く環境
遺伝子組み換え作物とは、ゲノム編集を含む遺伝子組み換え技術によって、遺伝的性質の改変が行われた作物のこと。世間のイメージとは裏腹にその有用性は世界中で認められており、耕作面積、収穫量ともに年々増加の一途をたどっています。
農学部 生物資源学科
寺田 理枝 教授
Rie Terada
東京都生まれ。1979年、筑波大学第二学群生物学類卒。1982~1994年、三菱化成株式会社・研究員、1990年、農学博士(東北大学)、1994~1996年、スイス連邦工科大学植物学科・博士研究員。基礎生物学研究所・助教を経て2010年4月から現職。所属学会は、日本育種学会、分子生物学会、植物生理学会。
あまり詳しくないけれど、遺伝子組み換え農作物は体によくないんですよね?食品を買うときは、原材料をチェックして、遺伝子組み換えでないものを選んでいます。
実は、「遺伝子組み換え農作物が人体に悪影響を及ぼす」という証拠は存在しないんです。過去に報道されたニュースも、そのほとんどが捏造(ねつぞう)か、別のソースを流用したものだと言われていて、それを裏付ける論文も数多く発表されているほど。近年は、遺伝子組み換え農作物は、耕作による自然への悪影響を軽減するという考え方が増えています。例えば遺伝子操作によって病気に強くなった植物には強い農薬が必要ないので、付近の土壌や水質が改善されたという研究結果も報告されているんですよ。 また、日本は、大豆、綿、菜種、トウモロコシのほとんどを輸入に頼っていますが、その多くはすでに遺伝子組み換え農作物だと言われています。現代は食品の加工ルートが複雑で、それをすべて追うのは難しいと感じます。
遺伝子組み換え農作物が流通し始めてから10年以上がたち、その安全性が確立されているとして、現在は遺伝子組み換え作物とそうでない作物を分別しない原材料も多く輸入されている。輸入大豆の約70%はアメリカ産。アメリカで栽培される大豆の94%は遺伝子組み換え作物であることから、日本で流通する大豆の約80%は遺伝子組み換えとの見方もある。
菜種 | 大豆 | |
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日本国内の生産量※1 | 3,160t | 243,100t |
輸入量※2 | 2,441,553,000t | 3,242,619,000t |
※1 出典:農林水産省「平成28年 作物統計」 ※2出典:農林水産省「2015年 品目別貿易実績」
遺伝子組み換え農作物の耕作面積が増え続けている理由は?それによるデメリットはないのでしょうか?
ゲノム編集にかかわらず、農作物の品種改良による目的は大きく分けて二つあります。一つは、病気や害虫への耐性強化。もう一つは、収量の増加です。農家にとって遺伝子組み換え農作物を選択するメリットは、従来の種苗よりも育てやすく、農業技術がなくても確実な収量を見込める点にあります。そのため海外の大規模農家では、遺伝子組み換え農作物が積極的に導入されています。
世界に目を向けると、農作物のゲノム研究は、各国の公的な研究機関のみならず、種苗会社など民間企業でも盛んに行われています。企業で開発した種苗が市場に出る際、それに対応する農薬がセットで販売されることは珍しくありません。今後、そうした動きが加速すれば、種苗市場の独占化が進むのではとの懸念があるのも事実です。