特集科学的視点で名城大学出身アスリートを支える 「アスリートサポートセンター」

スポーツ医学の研究成果と実践

名城大学では、2015年にスポーツ医学の研究を通じ、その成果を運動部に還元する「スポーツ医科学研究センター」を発足。2021年4月にはアスリートのサポートに比重を移して活動を継続すべく、「アスリートサポートセンター」を立ち上げました。研究代表者の梅田孝教授に、センターの実績と今後の展望について伺いました。

薬学部 薬学科

梅田 孝 教授

Takashi Umeda

科学的視点で名城大学出身アスリートの活躍を、全面的にサポートする「アスリートサポートセンター」を発足しました。

女子駅伝部の連覇をはじめ数々の勝利や好成績に貢献

 これまで名城大学の運動部に研究成果を還元してきた主な実績としては、いずれも特別強化クラブである女子駅伝部の、杜の都駅伝4連覇や全日本大学女子選抜駅伝競走(富士山女子駅伝)3連覇、硬式野球部の2017年度明治神宮野球大会2年連続出場や2021年度愛知大学野球春季リーグ優勝への貢献があります。
 女子駅伝部には弘前大学時代から関わっており、心身に関する全項目のメディカルチェックを定期的に実施しています。毎年4月、各選手の身体状態把握と練習量決定のための調査に始まり、7月には暑熱環境下、9月には夏合宿後の状態確認をそれぞれ実施。その後、10月の杜の都駅伝と12月の富士山女子駅伝の前にもチェックを行い、いずれもベストな状態で当日に臨めるよう助言・指導を行っています。
 強化クラブのバレーボール部やラグビー部なども含めると、メディカルチェックだけでも毎月1~3回と密に関わっています。当然ながら女子駅伝部の沖縄合宿から硬式野球部の練習拠点である日進キャンパス(総合グラウンド)まであらゆる現場へ出向き、各部の課題に応えています。

メディカルチェックには選手・指導者教育の意味もある

 学内外を問わず、メディカルチェックを活用して勝利や好記録を収めた選手からは、「栄養面を考えて食べるようになった」「体に異常がないと分かり、自信を持てた」といった声が聞かれます。メディカルチェックには、アスリート教育の意味もあると考えています。
 例えば合宿の後は、通常レベルの2時間程度の練習でもオーバーリーチング(一過性の疲労)が強く現れます。このとき単に疲れを自覚するだけでなく、血液検査の数値を知れば、自分の体の中で何が起きているか、どんなメンテナンスが必要かを考えるきっかけになります。
 そこに意識が向くようになると、行動も変わってきます。練習後に飲みに行っていたような選手も、むやみに行くことはしなくなります。
 また、練習に対してもただがむしゃらに行うのではなく、科学的な目を持って臨めるようになります。合宿で他の選手は限界まで筋肉を追い込めているのに、自分はそうではないと血液検査データに出たら、やり方に問題があると考え改善を図ることができます。疲労蓄積がデータに表れたら、1カ月後の試合時にベストコンディションになるよう練習メニューを調整できます。  体の中で何が起きているかに目を向けることは、このように、今の自分に何が必要かを、自分で考えられる選手を育てます。それと同時に、指導者にとっては自分のやってきた指導が正しかったかどうかの採点にもなるのです。

総合研究所・スポーツ医科学研究センターに併設された「実践スポーツ医科学研究会」の第4回研究報告会には、オリンピック柔道金メダリストや女子駅伝部員ら約60名が出席

アスリートサポートセンターからスポーツ医学のさらなる普及を

 アスリートサポートセンターの最大の目的は、名城大学の在学生や卒業生が国際舞台で行われる大会で活躍できるよう、大学を挙げてより強力にサポートすることです。
 例えば、現在、女子駅伝部で血液検査と身体組成測定、骨密度測定、心理テストの全項目でのメディカルチェックを実施していますが、今後は一部の項目でしかチェックできていない硬式野球部やラグビー部、バレーボール部などの特別強化・強化クラブにも、必要に応じてこれを実施していきたいと考えています。  学外では、名城大生の出身高校の野球部やバスケットボール部、陸上部などで、身体組成測定を実施しています。今後もこうした活動を通じて、選手はもちろん指導者にも予防の視点を広めるよう啓発していきます。
 これらに加え、メディカルチェックを一般の人に普及させる取り組みにも力を入れたい考えです。好中球機能や筋肉バランスなどのチェックは、トップアスリートだけがするものだと思われるかもしれませんが、アスリートでも一般の人でも、健康の大切さと、そのために予防が重要であることに違いはありません。100kgのウエートを持ち上げるアスリートであっても、20kgを持ち上げる高齢者であっても、鍛えるために十分な負荷がかかっているか、筋力が弱い箇所はないかといった、現状把握をする際に見るべきデータは同じ。スポーツ医学の研究成果は、皆さんが毎日を健康で過ごすために役立てるべきものなのです。

女子駅伝部のメディカルチェックの様子。毎年4月の調査に加え夏場や大会前にチェックを行い、選手がベストコンディションを保てるよう助言・指導を行っています

女子駅伝部 コーチ 中尾 真理子

 私が名城大学女子駅伝部のコーチに就任したのは、梅田先生が女子駅伝部のサポートについてくださったのと同タイミング。それ以前の状況は把握していませんが、自分が学生だった15年程前にはこのようなサポート体制はありませんでした。専門的なアドバイスをしてくださる梅田先生のような存在が近くにいることは、選手にとっても指導するわれわれにとっても、大変心強いですね。
 定期的に血液検査や身体組成を測定することで選手の状態が正確に把握でき、不安なく競技に臨めると同時に、パフォーマンスの向上へつながりました。また、貧血の選手が減り、体調に不安があれば、すぐに専門家に相談できることも大きな安心材料に。梅田先生には、これからも変わらずご指導をお願いしたいと思っています。

硬式野球部 監督 安江 均

 以前は独自のトレーニングメニューを開発・実行していましたが、効果測定・検証方法が難しく、高いパフォーマンスを引き出す上で有効なトレーニングなのか、不明確になっていました。梅田先生のサポート後は定量的・客観的なアプローチが可能となり、有効なトレーニングによるPDCAサイクルを回していけるように。また、選手一人一人の傾向が把握しやすくなり、問題点やポイントを絞った効率的なトレーニングが可能となりました。さらに多くのトップアスリートを支えてこられた梅田先生だからこその高い水準のご指導により、選手自身がトップ選手との差を自覚。取り組むべき課題の理解へつながったこともうれしい変化でした。その結果、2021年春季リーグ戦優勝や全日本選手権大会で15年ぶりにベスト8に進出するなど、部全体でのレベル向上が実現しています。