特集VRを知るための6つのトピックス

2016年は「VR元年」とも呼ばれ、さまざまなメディアで VRの可能性が取り上げられました。今もその熱は高まり続 けており、新たな分野への進出も注目されています。

理工学部 情報工学科 博士(工学)

柳田 康幸 教授

Yasuyuki Yanagida

東京大学大学院工学系研究科計数工学 専攻修士課程修了。20年以上にわたりVR の研究に従事。現在はVR技術を中心に、 五感を通して人間と情報世界とのやりとりをするインタフェースの研究を行っている。

TOPICS 01 VRブーム

ここ数年は世界的なVRブームであり、研究の現場でもそれを肌で感じることができます。特に米国では、フェイスブック、グーグル、ウォルト・ディズニーといった有名企業がVRに関連するベンチャー企業や開発機関に多額の出資を行っているほか、ハリウッドをはじめとしたエンターテインメント界においてもVRを活用しようとする動きが高まっています。VRに関連する市場規模は、2020年までに2016年の10倍以上の成長が見込まれるとの調査結果もあるほどです。

TOPICS 02 ヘッドマウントディスプレイ

ヘッドマウントディスプレイ(HMD)は、CG(コンピューターグラフィックス) コンテンツや映像を目の前にあるかのように浮かび上がらせるための装置です。2010年代に入ってから、国内外の有名メーカーやベンチャー企業が新製品を次々に発表しており、高性能かつ安価な製品の登場がVR市場の高まりをけん引しているとも言われています。

TOPICS 03 インタラクティブ

ゲームなど、ユーザーの動きによって変化するシステムを「インタラクティブ(双方向的)」と言いますが、VRを使えばさらにインタラクティブな体験が可能となります。VRでは、ディスプレーやリモコンに搭載されたセンサーによってユーザーの位置や動きを感知し、それに対応した情報処理を行います。自分の動きと連動してバーチャル世界が変化するので、臨場感を強く得られます。

TOPICS 04 五感の再現

読者の中には、「VR=CG応用技術」と捉えている人も少なくないかもしれません。しかし「VR」が「仮想現実」と訳されるように、その範囲は現実世界にあるもの、つまり人間の感覚のすべてに及びます。「視覚」だけでなく、「聴覚」「触覚」「嗅覚」など、人間のあらゆる感覚を再現することができれば、これまで以上に現実空間と情報空間が境目なく融合する世界が実現すると考えられます。

TOPICS 05 用途の広がり

VRの活用は、ゲームや映画などのエンターテインメントにとどまりません。
例えば、医師、パイロット、軍人など、高度な技術と経験が必要とされる職業では、すでにVRを使った訓練シミュレーションが行われており、教育現場においても、VRを使った体験学習が注目を集めています。不動産業、観光業、結婚式場などでは、現地に足を運ばずともその場の雰囲気が体験できるサービスも登場し、イベントのアトラクションとしても活用されています。

医療 VRによる学習や研修、手術など医療行為の練習
旅行 航空機の操縦練習、バーチャルトリップ
教育 実習・体験学習をもっと身近に
不動産 設計図面の疑似体験
軍事 軍人の訓練システム

TOPICS 06 VR・AR・MR

VR技術の発展により、「AR」「MR」といった技術にも注目が集まっています。AR(AugmentedReality)は、現実の空間に付加情報を重ね合わせることで現実世界を拡張する技術です。VRでは仮想世界に入り込みますが、ARはあくまでも現実の世界を主体に置いています。

MR(MixedReality)とは、CGなどで作られた人工的世界と、現実世界を融合させた世界を体験できる技術です。MRでは、人工的世界(情報)と現実世界が相互に影響するため、その違いが見分けられないような世界になると予想されています。

VR
VRは、HDMの進化により活用の幅が広がった。

AR
ARを使えば、何もない空間に必要な情報を映し出すことができる。

MR
MRによって、SFのような世界を体験できる日が訪れるかも。

VR技術の発展と、「リアル」の変異

世界初のVR装置は1968年に米国計算機科学者アイバン・サザランド氏が開発したHMDシステムだと言われています。私は1990年代からVR研究に携わっていますが、近年の技術の進歩は目を見張るものがあります。映画やゲームなど、VRとエンターテインメントの相性は非常によく、技術向上も娯楽業界がけん引してきた事実があります。

3D映像が大きな話題を呼んだ「アバター」の公開が2009年。それから10年足らずで、360°コンテンツが楽しめるVR技術が簡単に手に入るようになりました。映画やゲームでは既に実際の写真や映像と区別がつかないレベルのコンピューターグラフィックスが多用されており、中には「現実世界でないことを演出するため、あえてCGっぽさを表現する」というケースもあるほど。既に現実世界と仮想世界の境界線はあいまいな世の中になりつつあり、ひいては、現実とバーチャルを区別する意味はなくなっていると考えられます。例えばお金。昨今、仮想通貨がニュースをにぎわせていますが、仮想通貨を取り上げるまでもなく、「貨幣」そのものがモノの価値を「バーチャル化」したものだといえます。現代人の多くは、クレジットカードや電子マネー、インターネットショッピングを日常的に利用していますが、そこで発生する金銭取引に、実物の貨幣は使用しません。しかし、「価値を表す」という機能においては本物の貨幣と同じ。実際、現代人においてどれほどの人が、お金を「リアル」なものとして捉えているのでしょうか。

また、近年の私たちの体験は、目の前にある事象・物理的な体験よりも、テレビやインターネットから得る情報の方が多くなっているはず。つまり、現代社会においての「現実」とは何か、それ自体の意味が変わってきている、とも言えるのではないでしょうか。