移行用/ニュース 吉野彰教授に日本国際賞 国際科学技術財団が発表
公益財団法人国際科学技術財団は1月30日、2018年(第34回)Japan Prize(日本国際賞)の受賞者として、本学大学院理工学研究科の吉野彰教授(工学博士)ら3人を発表しました。吉野教授は「資源・エネルギー、環境、社会基盤」分野での受賞で、リチウムイオン電池の開発の功績です。同日は吉野教授の70歳の誕生日にあたり、吉野教授にとっては古希の祝いと二重の喜びとなりました。
日本国際賞は、科学技術の進歩に対する貢献だけでなく、私たちの暮らしに対する社会的貢献も審査基準とし、人類の平和と繁栄に貢献する著しい業績を上げた人に授与されます。1985年に第1回が始まりました。毎年、2つの分野を授賞対象とし、2018年は、吉野教授のほか、「医学、薬学」分野でアメリカとオーストラリアの2博士が選ばれました。授賞式は4月18日、天皇、皇后両陛下ご臨席の下、東京の国立劇場で行われます。
受賞者発表会と記者会見が30日、東京都のKKRホテル東京で開かれました。吉野教授は受賞者あいさつで「古希の誕生日にはいいことが起こるというわが家の言い伝えがあります」と奇縁を喜び、「リチウムイオン電池の技術革新を求めている研究者たちがこれをばねに素晴らしいイノベーションを生み出してくれると思います」と、後進への波及効果に期待しました。
【吉野教授の記者会見などでの話】
-成功の秘訣(ひけつ)は
変化していく世の中のニーズと自分の持っているシーズをうまく結びつけたことです。実験室である程度のサンプルができると、普通は秘密の問題もあり外へ出せません。しかし私の場合はフリーハンドで外へ出せました。お客さんのところへ物やデータを持っていくと、本当はこんなことが大事だとか、それは過去のニーズだとか指摘を受けることができます。自分からまず物を出して、相手から何かをもらうことが成功の秘訣です。
-結びつける工夫は
本当のニーズをつかむためには、自分の持っているデータやサンプルをできるだけ早くオープンにすることです。
-日本の科学技術の位置付け
過去の優位性をよく意識して技術開発に努めなければなりません。自分の持っているものを囲い込まず、オープンにして研究を進めていくことが大事です。
-研究予算の配分について
役に立つ研究ならとことん配分したらいい。真理を探究する基礎研究も必要です。一番悪いのは中途半端なこと。今の日本は中途半端なところにいるのではないかと懸念します。
-業績が今評価された時代背景をどう考えますか
2001年にテキサス大学のグッドイナフ教授がこの賞を受賞しました(環境調和型高エネルギー密度リチウム二次電池用電極材料の発見の功績)。リチウムイオン電池がこれから急成長していくという時期です。それから17年たって、リチウムイオン電池は電気自動車に搭載されるなど環境問題へのソリューション(解決策)を提供しています。世の中を変えたという時代背景の中で、同じリチウムイオン電池の研究者として受賞したと思っています。
-自ら開発したリチウムイオン電池の成長をどうみていますか
リチウムイオン電池はモバイルITの進展とともに成長していき、横ばい状態になった時、電気自動車に搭載されたり、環境への貢献で使われたりと、次の波が来てくれています。これから先が楽しみです。
-自分の経験をもとに若い世代に伝えたいことは
研究の初期段階では自分でも自信が持てないと思いますが、自信を持ってフランクにやったらいい。
【研究概要】
リチウムイオン電池は充放電を行える二次電池の一種で、スマートフォンやノート型パソコンの電源として現在のモバイル社会を支えています。また、最近は、普及が進む電気自動車にも搭載され、走行時の環境影響物質の排出量を低減するのに貢献しています。吉野博士は、リチウムイオン電池を考案し、それが充放電を行えることを1980年代初めに実証しました。当時は、リチウム金属を負極とする電池が研究の主流で、正極材料や非水系の電解質溶剤に関する研究が盛んでした。吉野博士は、コバルト酸リチウムを正極、カーボン系材料を負極とし、独自のセパレーター技術、集電体技術と統合的に組み合わせることで、高電圧でエネルギー密度が高く、寿命の長い二次電池を考案、実証しました。リチウムイオン電池の性能は、材料や製造法の改良で向上を続けており、今後もさらに応用が広がるものと期待されます。