トップページ/ニュース 薬学部が"AI患者"と対話する新システムを導入―服薬指導の力をリアルな会話体験で磨く

薬学部の牛田誠准教授は、生成AIと対話しながら服薬指導のスキルを磨くことができる新しい学習支援ツール「AIオンライン服薬指導学習システム」を株式会社NTTExCパートナーと開発し、6月17日の授業から活用を始めました。このシステムは、4年次の「薬物治療マネジメント」科目で導入され、1~3年次までに学んだ薬学や科学の知識を活かし、対話を通し一人ひとりの患者に合った服薬指導を学んでいきます。

学生たちは5年次から始まる病院や薬局での実務実習に向け、患者から必要な情報を適切に聞き出す「対人スキル」を磨かなければなりません。今回のシステム導入により、学生たちはAI患者との模擬対話を通じて、実際の現場で求められる状況判断力やコミュニケーション力を、時間や場所にとらわれることなく効果的に身につけることが可能となります。

AI患者「名城幸男」さんを前に悪戦苦闘

  • ディスプレーには対話のテキストと患者の表情が表示される ディスプレーには対話のテキストと患者の表情が表示される
  • 徐々にAI患者との模擬対話に慣れていく学生たち 徐々にAI患者との模擬対話に慣れていく学生たち

今回の授業で学生たちが対話したAI患者は、事前に本学教員を撮影し、そこから生成された「名城幸男」さん(78歳・男性)で、頷く姿や瞬き、声も現実の人物とそん色ない仕上がりとなりました。病状や性格は予め設定し、2年前に前立腺がんが見つかったものの、積極的ながん治療を行わず自宅療養を続けているという設定。最近は痛みがひどくなってきているはずで、医師から麻薬性鎮痛薬(オピオイド)の使用を提案されていますが頑なに拒否。性格は「非常に頑固」という難しい条件のAI患者が登場しました。

学生たちは「名城幸男」さんにマイクを通じて質問を投げかけると、その内容が画面にテキスト化され、自然な言い回しで応答します。しかし、頑固な性格ゆえ、麻薬性鎮痛薬の投与に前向きな回答は得られず、学生たちは悪戦苦闘。「名城幸男」さんから前向きな応答を引き出すためには、ただ質問を重ねるだけでなく、相手に寄り添い、共感や信頼を得るコミュニケーションが不可欠であることを体感しました。

学生たちはそれぞれに工夫を凝らし、およそ半数が「名城幸男」さんから前向きな回答を得られました。実際にシステムに触れた学生たちは「患者さんに寄り添うという意識が欠落していたことに気付かされた。実際の人間関係ではコミュニケーションこそが大切だと学んだ」「自分たちが求めている回答をすぐに求めず、まずは信頼構築が大切なのだと感じた」といった声が相次ぎました。

今後の薬剤師に求められること

  • 牛田准教授と学生たち 牛田准教授と学生たち
  • 開発を担当したNTTExCパートナーAI共創イノベーション室の吉野和則課長 開発を担当したNTTExCパートナーAI共創イノベーション室の吉野和則課長

授業を担当した牛田准教授は「今後は、対話の中で必ずチェックしなければならない点や薬剤の相互作用などを評価した採点機能などを実装していくつもりです。とはいえAIシステムだけで学びが成立することはありません。こういった技術を学修の一部にどう組み込んでいけるか、AIの力をどう借りるかが重要です」と次を見据えています。

NTTExCパートナーの田村昇常務取締役は「ChatGTPなど生成AIの進化により、システムで出来る事が飛躍的に増えました。今回、表情や声、動きのある生成AIアバターを導入したことで、学生の皆さんにはリアリティのある対話体験を提供できました。その結果、学生たちはテキストでの学習とは違った反応を示してくれ、質の高い教育効果が得られたことがわかりました。さらに今回のシステムは様々な環境設定も可能です。例えば、最近日本でも外国人の患者さんが増えていますが、日本語がたどたどしい患者さんとの対話という状況も再現し、トレーニングすることもできます」と語りました。

最後に牛田准教授は「技術がさらに発展していくと薬剤師業務の調剤や患者への薬剤指導はAIが代替していくはずです。しかし、病気や死を前にした患者さんが求めるのはやはり心のよりどころ。これからの薬剤師に求められるのは、対人コミュニケーション力です。今回AI患者を導入したことで、学生たちには患者の想いに寄り添うことへの意義が向上したと思います」と学生たちへの期待も口にしました。

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