トップページ/ニュース 経営学部山岡ゼミにて山並憲司氏を招いた特別講演会を開催

  • 株式会社Smart Opinion 代表取締役社長 山並 憲司氏 株式会社Smart Opinion 代表取締役社長 山並 憲司氏

経営学部山岡隆志ゼミナールでは、11月13日(木)、Smart Opinion代表の山並憲司氏をお招きし、特別講演会「日米での起業と事業化―社会課題解決型スタートアップの創り方」を開催しました。

講演に先立ち、山岡教授より山並氏の多岐にわたるキャリアが紹介され、「学生の皆さんの将来の参考になるお話をぜひ聞いてください」と挨拶がありました。

■ 山並憲司氏プロフィール

東京大学大学院、M.I.T.スローン経営大学院、Duke Law School卒業。大学院時代に医療画像×AIを研究後、経済産業省に入省し個人情報保護制度の創設に携わる。その後、マッキンゼー・アンド・カンパニー、楽天の執行役員などを経て、多くの新規事業を立ち上げる。母親の乳がん経験をきっかけに、「乳がんによって幸せが奪われることが一人でも少なくなる世界を実現する」ことを目指し、AIを活用した乳がん検診を推進するSmart Opinion株式会社を創業。

社会課題解決に挑む―ゼロから医療分野の事業化に成功

講演の冒頭で山並氏は、これまで歩んできた多彩なキャリアと、アメリカでの実業および起業経験について紹介しました。楽天には一般職として入社し、その後マネージャー、部長、役員へと短期間で昇格しました。さらに、楽天が買収した米国の電子商取引サイトへナンバー2として派遣され、周囲が全員米国人であり、かつ買収された側の社員という厳しい環境の中で大きな苦労を経験したと振り返りました。渡米後には、インターネット事業と組織運営で培った経験を生かして米国で起業しました。ユーザーの視点を重視したオンラインショールームを立ち上げましたが、流入数の確保が難しく閉鎖に至った経験も率直に語り、「挑戦することそのものに価値があり、失敗からこそ多くを学べる」と強調しました。

現在、山並氏が代表を務める株式会社スマートオピニオンは、慶應義塾大学医学部と共同で、乳がんを対象とした超音波画像の人工知能診断支援ソフト「スマートオピニオン METIS Eye」を開発しています。本製品は昨年、国から薬事承認を取得し、2025年8月19日の販売開始が発表されました。発表後は多くのテレビ局のニュースで取り上げられ、大きな注目を集めました。製品化には、医療現場で求められる高い精度の実現など、多大な時間と労力が必要でした。5,000例を超える乳がん画像を人工知能に学習させ、病変を確実に認識できる水準まで精度を高めなければなりませんでした。また、医療機器の開発には医療機関との連携や厚生労働省の認可手続きなど、高い参入障壁があります。共同開発者である慶應義塾大学医学部教授の林田哲医師は山並氏の高校時代の同級生であり、山並氏自身が経済産業省出身であることから、人脈を生かした官庁対応が大きな後押しになったと語られました。ゼロからの参入を実現できた背景には、深い人との関係性と専門性に基づく強固な協力体制がありました。現在は、米国のMayo Clinicとの共同研究も進めており、山並氏は「女性の健康への取り組みが企業価値に直結する時代。戦略的な福利厚生として人工知能乳がん検診を導入することで、働く女性の生産性向上に寄与できる」と展望を述べました。

複数の専門性を身につけ差別化された人材に

山並氏は学生に向けて、「自分に限界を設けず、複合的に価値を創造できる人になってほしい」と語りました。社会で求められる人材とは、「自分にしかない差別化の要素」を持つ人であると強調します。山並氏自身は、大学院で電子工学を学び、経済産業省で国の仕事に携わり、海外で経営学と法学を修め、戦略コンサルティングで企業戦略を磨き、楽天でデジタル事業の専門性を高め、海外での事業と組織運営、米国での起業を経験してきました。「一つ二つの経験であれば似た経歴の人材はいるが、これだけ複数の掛け合わせた同じ人材はほとんど存在しない」と語り、複数の専門性を統合することが差別化の鍵であると説きました。

また、夢や目標を持つことの重要性にも触れ、自身は「20代は社会への貢献、30代は経済への貢献、40代は社会への提案」と、10年単位で人生を設計してきたと紹介しました。将来像を描いたうえで、40代や50代で何を目指すのかを逆算して新卒時の企業選びに生かすことは、優れたキャリア戦略であると助言しました。さらに、「技術や専門性を持たないまま起業しても、社会的意義の薄い事業になりかねない」と指摘し、最初は起業を目指していても、大企業で経験を積み専門性を高めることで、初めて取り組む意義のあるテーマに挑戦できると述べました。将来を見据えたキャリアデザインの重要性を強調しました。

質疑応答では、学生からの質問に丁寧に答えながら、「心からわくわくできる対象を持つことが大切である」「課題の解決を目的とした起業は社会の根本的な変革を目指すものである」といった、実体験に基づく力強いメッセージを送りました。最後に、「自分が存在して良かったと他者に思ってもらえる生き方をしたい」と語り、講演は大きな拍手に包まれて締めくくられました。

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