特集生きるための資源。

平成は、阪神淡路大震災、東日本大震災、大型台風、豪雨など、多くの災害とともに思い起こされる時代であった。しかし、これから新しい時代を生きる私たちにとっても、災害は避けようもなく、繰り返されるのかもしれない。ひとたび災害が起これば、直接的な被害者・被災者のみならず、救援者や報道に携わる記者たち、ひいては報道で災害情報に接する周辺住民など、さまざまな人々にストレスが生じうる。
さらに、平成はバブルの崩壊による経済の混乱、あるいはインターネットの普及やグローバリズムの深化に伴い、さまざまなストレスが目立った時代でもあった。
人生100年時代が叫ばれる今、私たちはかつて経験したことのないストレスと向き合うことになるのではないだろうか。 私たちはどのようにこれらのストレスと向き合い、対処していけばよいのだろう。

ストレスとは。

こころをゴムボールにたとえると(畑中美穂先生のお話から編集部により作図)

ストレスは日常的によく使われる言葉だが、心理学的には「生体の恒常性(ホメオスタシス)を乱す種々の刺激」と定義される。つまり、簡単に言えば、いつもどおりの状態を維持できなくさせる刺激ということになる。この定義は非常に広範であり、さまざまなストレスが考えられる。たとえば非常に高い室温や眩しい光、あるいは騒音などの刺激もストレスとなりうる。また、親との確執、受験勉強、友だちとの喧嘩、恋愛のいざこざなど、学生がよく経験するような対人的な事柄も心身に負担をもたらすストレスになりうる。
ストレスの原因となる刺激(ストレッサー)にさらされると、抵抗するために生体内部の自律神経系や内分泌系等の活性レベルが高まる。この際に動悸が早まったり、血圧が上昇したり、極度の緊張状態になったり、様々な生体の反応が生じる。これは、ストレッサーに対抗すべく、最大限に効果的に動くための生体の準備状態であるが、この状態が長く続くと身体は疲弊して、外部からのストレッサーに対抗できなくなってしまう。ついには、自律神経の乱れ、頭痛、肩こり等の身体的変化や、自信喪失、無気力、思考力の低下等の認知・行動的変化が生じ、最終的には胃潰瘍等のストレス関連性の疾患(心身症)や、うつ、不安障害等の精神的疾患に陥る。

各世代にあるストレス。

ストレスにはさまざまなものがあるが、対人関係に伴うものが大半を占める。各世代のライフステージで、関係する人、向き合う人との関係でストレスが起きる。学校ならば友人関係や部活でのポジション争いで悩む学生もいるかもしれない。職場なら上司、先輩、後輩、あるいは取引先との関係など、自らが置かれている立場によってさまざまなストレスが起こる。
人生100年時代という視点で考えると、たとえば65歳で定年を迎えたとして、あと35年の人生が待っている。成人するよりもさらに長い時間がある。定年を迎えてセカンドキャリアに踏み出したり、新たな人との関わりがあるかもしれない。そこでもストレスは起きる。また、超高齢社会という日本の現状から考えると、子ども世代にとっては親の介護に関わる問題もあれば、高齢者に対する偏見の問題もある。年代ごと、ライフステージごとのストレスだけではなく、超高齢社会では多様な世代が混ざり合う中で、各世代への無理解によるストレスも起きる可能性がある。

精神の健康について。

平成26年厚生労働省「健康意識に関する調査」より
健康感を判断する際に、重視した事項(3つまでの複数回答)。

健康寿命という言葉がある。健康上の問題に制限されることなく日常生活をおくることができる期間のことを指すが、よく知られているように、身体の健康と精神の健康はつながっている。精神の健康が損なわれると、身体の健康もまた蝕まれていく。
人々が健康を考える時、何を理由に健康であると判断するのかについて、厚生労働省の「健康意識に関する調査」(平成26年)がある。その結果は、「病気がないこと」「美味しく飲食できること」「身体が丈夫なこと」など、身体的な理由が大半を占める。一方、「不安や悩みがないこと」「幸せを感じること」「前向きに生きられること」「生きがいを感じること」など、精神的な理由も少なくない。さらに、「人間関係がうまくいくこと」「仕事がうまくいくこと」「他人を愛することができること」「他人から認められること」といった、人と人とのつながりに関わる社会的な理由も目立つ。精神面での充実が全般的な健康に不可欠である、と多くの人が感じているようだ。

人とのつながり。

「対人ストレスに関する研究では、対人関係においてストレスの原因となるのも人なら、ストレスを緩和させたり、対処の支援を提供するのも人であることが繰り返し実証されている。人は、誰かのストレスの原因にもなれば、ストレス対処の資源にもなりうる。」と畑中先生は言う。
自分の心身の状態に異変を感じた時、助けてくれる人、話ができる人、またその異変に気づいてくれる人が身近にいること。人とのつながりがあり、人と話すことができる環境があるということが、私たち人間にとっては欠かせない、生きるための資源なのだ。
あらためて、私たちの回りに、そういう環境があるか、人とのつながりがあるか、考えてみたい。

人間学部

畑中 美穂 准教授

MIHO HATANAKA

筑波大学第二学群人間学類卒業。筑波大学大学院博士課程心理学研究科修了、博士(心理学)。
2008年、名城大学人間学部に赴任。
博士論文のテーマは、「会話場面における発言の抑制」。また、消防職員などの災害救援者や、災害等の現場で取材を行う報道関係者が衝撃的な現場で被る惨事ストレスやその解消方法について、長年にわたり調査・研究に携わっている。 共編著書として、『対人関係を読み解く心理学』『社会に切り込む心理学』など。

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