特集人の生活に寄り添う ロボットシステムデザイン
社会実装のキーワードは"環境整備"と"単純化"
多様なニーズに応えるサービスロボットの開発

理工学部メカトロニクス工学科
大原 賢一 教授
kenichi ohara
1978年生まれ。神奈川県横浜市出身。2002年芝浦工業大学工学部電気工学科卒業、2004年同大学大学院 工学研究科電気工学専攻修了。2008年筑波大学大学院 システム情報工学研究科知能機能システム専攻 博士(工学)。2013年名城大学 理工学部メカトロニクス工学科准教授、2019年より現職。日本ロボット学会理事(事業)、公益財団法人ニューテクノロジー振興財団理事をはじめ多くの学協会での委員も務める。
ロボット開発で重要なのは人・環境との関係を考えること
メカトロニクスは、MechanicsとElectronicsを合わせた造語。従来の機械と電気の融合に加えて、現在では情報も含めた幅広い学問領域です。機械×電気×情報の融合分野における応用例の一つが、私が取り組んでいるロボットシステム開発です。この分野に進もうと思ったのは、芝浦工業大学の電気工学科2年のころ。授業で迷路を探索するロボットを知り、これを自分で作りたいと思ったことがきっかけです。その後、修士課程在籍中に、つくば市の産業技術総合研究所へ。住空間で活用するロボット研究を進める中で、ロボットの社会実装が進まない要因が見えてきました。
例えば、棚に物を置くという作業。工場などでは、ロボットに動作を教え込ませることができるので比較的簡単な作業ですが、住環境などでは周辺認識や柔軟な動作の生成など多様な技術が求められ、技術的な面だけでなくコスト面でのハードルも上がります。それなら、ロボットが複雑な動作をしなくていい状況を生活環境の中に作ればいい。社会実装を進めていく上で重要なのは、人・ロボット・環境の関係を最適な設計に落とし込むこと。その気づきが、現在の研究テーマである、人の生活に寄り添うサービスロボットの開発につながっています。
国の重要プロジェクトにおける数々のロボット開発が進行中
研究室の主なテーマは、「専門知識がなくても、日常生活の中で誰もが使いこなせるロボットシステム」を実現するためのソフトウエア基盤の構築です。国のプロジェクトとして企業などと連携し、複数の研究開発を進めています。その一つが、大手重工業メーカーを含む五つの機関と共同で進めるカフェやレストラン、オフィスなどで人を支援するロボットの社会実装を目指したプロジェクトです。羽田イノベーションシティ内の「CO-CREATION PARK KAWARUBA」という共創スペースや「AI_SCAPE(アイスケープ)」というロボットレストランで実証実験が行われてきましたが、私たちの研究室はこのプロジェクトにおいて、愛知でのロボット開発のための共創の拠点の構築だけでなく、人材育成の場の設立を目指しています。羽田での運用システムの実装に加え、開発したシステムの応用に取り組むほか、鶴舞のオープンイノベーション拠点「STATION Ai」では、配送サービスの実証実験を実施しました。
内閣府が主導するムーンショット型研究開発事業で取り組んでいるのは、一人に一台一生寄り添うスマートロボット「AIREC(AI-driven Robot for Embrace and Care)」の開発。接客や家事はもちろん、医療・福祉の現場での活用を視野に入れています。また、音声対話を用いたサービスロボット開発では、生活の中で誰もが気軽にロボットを使いこなせる社会を目指しています。
ロボット競技会で優秀な成績を収めた商品陳列ロボット
「人を思うものづくり」をモットーに学生を指導する大原教授
どのプロジェクトも、研究室の課題として学生と一緒に取り組みます。中でも、商品陳列ロボットの開発は、学生主体で10年ほど続けています。目的はコンビニの店内など限られたスペースで、棚に商品を並べる作業を自動化すること。こうした取り組みと関連して、本学とつながりのあるイオンモールナゴヤドーム前店で実験させていただき、現場の課題とニーズを捉えて開発に生かしています。例えば、店舗では棚のスペースが商品サイズに合わせて設計されているため、その狭い空間でロボットが作業するのは容易ではありません。それなら棚が自動的に前へせり出せば、ロボットが奥まで手を伸ばさなくても商品を並べることができるはず。環境を整えることでロボットの作業を単純化でき、実装に近づくわけです。
「狭い空間で商品を並べる」ことをゴールに設定し、課題を整理し、ハードとソフト両面から開発を進め、図面設計、製作、評価、統合...というのが、開発の流れです。毎年少しずつ改良を重ね、バージョンアップしてきました。10年間で、のべ100人近い学生が関わっています。この研究成果のアウトプットとして、経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)主催のロボット競技会World Robot Summitにも参加。「フューチャーコンビニエンスストアチャレンジ」部門の立ち上げに私が関わったこともあり、教育の一環として学生たちの挑戦をサポートしています。コンテストでは制限時間内にロボットがどれだけ商品を陳列できるかを競い、消費期限切れの商品をより分けるなど、高度な動作も求められます。学生が本番で直面する課題の多くは、事前準備の段階で見落としていた部分にあります。だからこそ、その「取りこぼし」に気づかせることを重視し、経験の浅い学生たちをしっかりとフォローすることが、私の役割です。
2023年の大会では3位入賞という好成績を収めました。大学での研究は、社会に出てそのまま使えるものではありません。求められるのは、人をまとめてプロジェクトを前に進める力や、締め切りのあるミッションで成果を出す力です。コンテスト参加は、その経験を積ませる良い機会だと捉え、社会に出てから即戦力として活躍できる人材育成に、研究と同様に力を入れています。実際、コンテストに参加することで、学生たちは大きく成長します。コンテスト参加で得られた知見を生かし、これから目標とするのは、社会実装に向けたさらなる技術発展。コンビニへの導入に向けた具体的な技術開発への取り組みを始めたところです。
サービスロボット開発における今後の課題と展望
「ロボットが人にとって代わる」とよく言われますが、やはり人は優秀です。大切なのは、ロボット導入によって改善できる部分をいかに評価して、実装するか。例えばコンビニの場合、接客、レジ打ち、商品陳列から掃除まで、1台のロボットが担って24時間稼働すれば、導入コストに見合うかもしれません。また、店舗環境とロボットの関係性をいかに築くかも重要。先ほどお話しした商品陳列ロボットのように、棚が前に出てきてくれるだけでロボット導入に向けて世界が変わることもあります。そういう意味では、ロボットを受け入れる側との意識のすり合わせも課題だと考えます。また、社会実装においては低コスト化や標準化も避けては通れません。国際標準化機構(ISO)での国際標準仕様の策定、ロボット革命・産業IoT イニシアティブ協議会(RRI)で国内企業向けの標準仕様の作成にも携わり、社会実装の加速に向けて動いています。
研究拠点は名城大学科学技術創生館
普段、研究活動を行っているのは、天白キャンパスに隣接する「科学技術創生館」。本来、LED研究の拠点ですが、十分なスペースを貸与していただいています。事務方のフォローもきめ細かく、国のプロジェクトにおける各機関との予算調整や契約業務も、安心して任せられます。欲を言えば、創生館のようなスペースがもっと増えて、総合大学としての本学の強みを生かした、いろいろな分野の先生方が柔軟に協力できるような研究環境が広がるといいなと思います。
研究者として、教育者としてこれから目指すこと
最近、研究者としてフォーカスしているのは農業分野です。有機農業における除草作業支援ロボットの研究開発を進めています。我々の研究室では、有機農業における課題である除草作業の支援をロボットで実現したいと思っています。こうした技術を用いて、有機農家が増えれば、国産野菜の価値も上げられると考えています。最後に教員としての目標は、卒業した学生が誇りに思ってくれる研究室を作り上げていくこと。小さな積み重ねですが、それが大学の強みの一つになればと思っています。そして、卒業した彼らが将来、共同研究のメンバーとして、後輩たちとともに次の世代のものづくりを作っていく人材に育ってくれることが私自身の目標であり、夢でもあります。






