特設サイト第52回 漢方処方解説(20)八味地黄丸
今回取り上げる漢方処方は、八味地黄丸(はちみじおうがん)です。
地黄(じおう)、山茱萸(さんしゅゆ)、山薬(さんやく)、沢瀉(たくしゃ)、茯苓(ぶくりょう)、牡丹皮(ぼたんぴ)、桂枝(けいし)、附子(ぶし、修治ブシ)の8種の生薬からなる処方です。
このコラムでお話しているように、漢方医学や中国伝統医学では、人体の生命活動を支える物質を「気・血・津液(しんえき)」と呼びます。
この中で、とりわけエネルギーとして考える「気」は、両親からもらった「先天の気」と日々の暮らしの中で大気や飲食物などから得る「後天の気」というものに分類されますが、これらを蓄えるところが「腎(じん)」という「臓」です。
いわゆる「五臓六腑」は、「気・血・津液」を生み出し、私達の身体を健康に保つために重要な働きをしているのですが、この「腎」は実にたくさんの役割を担っています。
先に述べた「気」を蓄える働きのほか、「津液」を蓄える「水がめ」の働きをすると考えられていますし、一方で「命門(めいもん)の火」と呼ばれる「コンロ」の役割も担っているとか。この「命門の火」によって、「脾(ひ)」(さながら鍋や釜の役割です!)に入った飲食物が「調理」されて「後天の気」が生み出されるのです。私たちのよく知る腎臓は、ちょうど左右2つありますし、この「命門」にあたるのは右の「腎臓」であると解釈されることも。
「コンロ」と「水がめ」が並んでいる様を想像すると、台所を思い浮かべてしまうのですが、同時にこうした考え方にもなんとなく納得させられてしまいます。
また、「腎」は発育や成長、生殖、そして老化に関係の深い「臓」とされます。
いわゆる加齢・老化現象は、この「腎」のエネルギー、すなわち「腎の気」が衰えた「腎虚(じんきょ)」によるものと考えられます。年齢を重ねると、「コンロ」や「水がめ」も古くなり、思うように動かなくなってくるのでしょう。つまり、「腎虚」は、温めるエネルギー(陽気)と冷ますエネルギー(陰気、陰液)が弱まった「腎陽虚」と「腎陰虚」と呼ぶこともできます。
八味地黄丸は、このような状態に用いる薬方として、「金匱要略(きんきようりゃく)」という漢の時代の処方集に収載されています。
構成生薬の中では、滋潤剤として「地黄」が中心的に働くことで「水がめ」の機能を補い、また新陳代謝を上げて「コンロ」の機能を補う主薬が「附子」なのでしょう。
まれに見る高齢化社会へと進んでいるわが国において有益な処方になることは容易に想像されますし、健康寿命の延伸には必要な薬剤となってくるのではないでしょうか。
今後も注目して研究を続けて行かなくてはならない処方です。
(2018年11月1日)