特設サイト第50回 漢方を科学する(その2)

第45回に、「漢方を科学する(その1)」として、私たちの研究室の漢方研究における基本的な考え方を述べました。今回は、そのつづきです。

研究課題例

研究課題例

私たちの研究室では、この東アジアで長く伝統医学として受け継がれ、また単一化合物である西洋医薬品とは異なる特長をもつ漢方薬がどのような作用を示すのか、またどんな成分が私たちの身体のどこに、さらにはどういった分子と反応することで、その作用が発揮されているのかを知りたい、そしてまだ満足できる医薬品のない疾患の治療に応用できないか、などという素朴な疑問や動機から、いろいろなアプローチで研究を行っています(研究課題例の図を参照ください)。
「漢方を科学する」というタイトルは、私の恩師である名古屋市立大学名誉教授の荻原幸夫先生によるもので、その一文は私たちの研究目的を端的に表すものであり、大切にしています。

さて、漢方薬による治療が望まれる領域にアレルギー疾患が挙げられます。花粉症に代表されるアレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎など、西洋医薬品による治療や症状のコントロールが難しいものばかりで、漢方治療には多くの期待が寄せられてきました。実際、医療現場では、いくつかの漢方薬が応用され、一定の効果を示しています。ただし、何が、どのように効いているのかについては、なかなかわかりません。それらを知るためには、適切な実験モデルが必要です。私たちが疾患に罹るのと同じような発症機構を辿り、同じような症状を呈する動物モデルが最も望ましいのですが、ヒトとマウスでは大きな隔たりがあります。

マウスでの実験

マウスでの実験

さらに、細胞でとなりますと、漢方薬のように内服する薬では消化管でまず吸収される必要があり、さらに肝臓での代謝なども考えなければならず、その作用についてすぐに細胞を使って調べることはできません。どうしても、マウスやラットでの実験が必要です。写真は、マウスの鼻腔に薬剤や抗原となる物質を点鼻し、マウスに「くしゃみ行動」を起こさせ、漢方薬の効果を検証しているものです。この「くしゃみ」でさえ、本当に私たちの「くしゃみ」と同じかどうか難しいものです。くしゃみを誘導するまでの機構を、考えられる限り、ヒトと同じくし、似たような症状を示すから、その疾患モデルとしているだけなのかもしれません。動物実験では、そういう難しさがあります。

今のところこれらのモデルを用いて、臨床で応用されている小青竜湯(しょうせいりゅうとう※第30回)麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう※第20回)苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう※第11回)などの効果を検証し、確かに「くしゃみ行動」を抑制することがわかってきています。どのような成分がその作用に関わっているのかについては、今もなお検討中です。

今週末には、こうした研究成果を発表する学会や研究集会が開かれます。
私たちの研究室からも発表しますが、全国の医学部や薬学部、企業や研究所からの発表があり、この分野の進展を見る機会として、楽しみにしています。

(2018年8月28日)

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