特設サイト第70回 Stay home
新型コロナウイルス感染拡大によりキャンパスも閉鎖となり、これまでとはまったく違う大学生活をすべての構成員が過ごしています。
晴れやかな卒業式が中止となり、大小いろいろな祝宴をも自粛したのは、ほんのひと月前のことでした。その卒業生も4月からは、医療現場で働いています。医療崩壊の声も聞こえる中、最前線での戦いを新人として始めていることでしょう。医療人を輩出していることを実感します。新入生もまた、入学式も中止、オリエンテーションもなく、同級生にも会うこともなく、講義を遠隔授業で受けています。在学生にとっても、教職員にとっても初めてのことばかりですが、いろいろな環境を整えて、対応しているであろう姿には頭が下がります。
このウイルスは、古くから存在するコロナウイルスの一種であるものの、潜伏期間の長さや症状の有無、さらには重症化したときの進行の速さやその分かれ目など、わからないことがたくさんあります。そのため、ものすごい数の臨床報告や研究論文を生んでいます。2020年4月26日現在で、PubMed(※1)で検索すると、6,075報もの研究論文がヒットしますから、世界中がこのウイルス感染症を理解し、対応策を模索しようとしている姿が垣間見えます。
また、この感染症は新たな言葉を私たちの生活にもたらしました。「3密」や「ソーシャル・ディスタンス」などの言葉です。そうした不慣れな言葉とともに、テレビや新聞、インターネットから情報を取り入れつつ、在宅勤務の日々を過ごしています。私たちは実験科学者でもありますから、テレワークや在宅勤務というのは想像もできませんでした。実験で確認する、新たな事実を見出すことができないというのは研究を停止させます。いろいろと考えることはできても、実験室に入れないというのは無力なものです。
その代わり、遠隔で講義を受ける学生のために、「どうしたら対面と同等の、いやそれ以上の講義を成立させることができるのか」と頭を悩ませています。ノートパソコンに向かうと、あれやこれやと時間も忘れてしまいます。そういえば、2月の末から時が止まったような感覚で、確かに沈丁花の花の香りは覚えていますが、梅や桜の花はあまり覚えていません。曜日を呼び戻してくれるのは、ゴミ出しくらいでしょうか。いや、遠隔授業が始まりましたから、講義資料のup loadや学生からの反応からも感じるようになりました。
不要不急の外出は避けるようにと言われ始めたときに、ホームセンターなどで植物の種苗が買い求められているという話を聞きました。確かに、土いじりをし、植物が成長していく姿を見ると、時の流れを感じますし、なんとなく達成感も得られるのではないかと思います。わが家のベランダでは、今年もアボカドが花を咲かせ始めました。自家不和合性(※2)の植物ですから、一鉢だけ花をつけた状態では残念ながら結実しません。日々、その姿を観察しながら過ごしています。
Stay homeと声高に言われております。
努力をするものではないかもしれませんが、日々の暮らしに楽しみを見つけながら、この在宅勤務をつぎに繋げたいと思います。「ピンチをチャンスに!」ですよね。
(※1)PubMed:米国国立医学図書館(U.S. National Library of Medicine)が提供する、医学文献データベース
(※2)自家不和合性:自分の花粉ではなく、他人の花粉でだけ受精すること
(2020年4月30日)