特設サイト第85回 漢方処方解説(43)乙字湯

今回、ご紹介する処方は乙字湯(おつじとう)です。

漢方エキスとしては、第十六改正の第二追補により収載されましたから、10年ほど前に日本薬局方に掲載された処方です。感冒や婦人科疾患などに用いられることの多い漢方薬の中では珍しく、痔疾に応用される処方です。痔疾は、古くから人を悩ませてきた疾患の一つで、紀元前4000年のインドのアユルベーダにも記載があるとか。日本人成人の二人に一人は痔があると言われ、非常に馴染みのある疾患です。

  • 乙字湯
    乙字湯

構成生薬は、当帰(とうき)、柴胡(さいこ)、黄(おうごん)、甘草(かんぞう)、升麻(しょうま)、大黄(だいおう)の6味であり、柴胡と升麻が痔疾によいとされます。当帰と大黄は駆血薬として微小循環障害の改善に作用し、さらに大黄は下剤としても作用します。また、配合される黄は、強い抗炎症作用をもつ生薬です。

原典は、江戸中期の医師である原南陽(はらなんよう、1753~1820年)の記した「叢桂亭医事小言(そうけいていいじしょうげん)」であり、そこでは現在の構成生薬にある当帰ではなく、大棗(たいそう/ナツメ)と生姜が配合されていました。後に、浅田宗伯(あさだそうはく、1815~1872年)がより効果を得られるように処方内容を変更したとされています。

この処方は、軽度の痔疾の疼痛、出血、肛門裂傷のほか、初期の脱肛にも用いられます。主に体力中等度のものに用いる処方ですが、大黄を含むので、服用後に腹痛を伴う下痢を呈する場合は適応外とされています。ただし、下痢をする病気で繰り返し下痢をする中で生じた脱肛には有効であるとも言われており、大黄の配合についてはそんなに神経質にならなくてもいいように思います。また、肛門周辺の湿疹や痒み、女性の外陰部の湿疹や掻痒症(痛痒いもの)にも有効だとされています。痔疾に有用な漢方薬としては、外用剤である紫雲膏もあります。乙字湯の内服に加えて、紫雲膏を併用することもあるようで、適宜使用すべしとあります。

コロナ禍により、リモートワークが多く、座って仕事をする中で、肛門や直腸下部での血流が悪くなって発症することもあるのではないかと思います。そんなときには、乙字湯をお試しになってはいかがでしょうか。

(2022年1月13日)

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