特設サイト【名城大学通信第49号】[附属高校レポート]

「科学と人間」「世界と私」新聞は情報の宝庫 教育に新聞生かす「NIE」実践10年に手応え

情報の収集、整理、発表力をつける教材としてのNIE

 名城大学附属高校では、新聞を教材として授業に活用するNIE(Newspaper in Education、エヌ・アイ・イー)学習に2004年度から取り組んでいます。総合学科が新たに特色あるカリキュラムを設けたのをきっかけに始まり、現在では総合学科だけでなく普通科クラスでもさまざまな形で実践されています。開始当初から関わってきた岡充彦教諭(社会)は、「多くの教員が、情報を収集する力、情報を整理する力、発表する力をつけることができる教材としてNIEを認識するようになった」と、実践10年の手応えを語ります。

調べ学習・まとめ学習での活用

 附属高校は2005年度、2006年度の2年間、NIE実践校に指定され、6紙(朝日、毎日、読売、中日、日経、産経)の無料提供を受けました。期間は原則2学期(9月~12月)ですが 、年間4か月間ということで、提供を受ける期間をずらすこともできます。

 当時の附属高校総合学科の2クラスでは、2年生の中国への修学旅行が実施されており、最初のNIE学習は、中国についての調べ学習でした。生徒たちは中国について、それぞれが関心を持った分野での新聞記事を集めました。新聞記事で探せない時はインターネットや図書館で本を探して調べを進め、日本と中国の文化の共通点や違いなど、それぞれが関心を持った情報を掘り下げていきました。

 修学旅行から帰ると、中国で見たこと、知ったことなどを記事として書き込み、写真を付けて新聞の形にまとめました。新聞紙面に割り付け、見出しをつけることは、何を強く表現 したいのかというプレゼンテーション力の育成にもつながるからです。

インタビュー記事「この人」の作成

 「中日新聞」3面に掲載されている人物紹介コラム「この人」は、新学期の新しいクラスでのコミュニケーションづくりに大きな力を発揮しました。1、2年生の各クラスで生徒たちがペアを組み、「この人」のスタイルで相手を取材し合います。趣味や特技、部活動などから始まって、どんなことを考えて、どんなことに努力しているのかなどを互いにインタビューし、クラス全員で「この人」を書きあげました。全員の作品が教室の後ろに張られ、生徒たちのコミュニケーションを深めるきっかけになっていきました。

 「プロの新聞記者が作成する『この人』は、限られた文字数の中に必要な情報が無駄なく盛り込まれています。相手から聞き出す力に加えて、相手に理解してもらうためにはどう要点を整理して、分かりやすく伝えるかなど、生徒たちはそれぞれの『この人』を作成しながら、コミュニケーション力を高めるには何が大切かを学んでいきました」と、岡教諭は指摘します。

 3年生の国際クラスでは、10年後の自分になりきった「この人」にも挑戦しました。どんな職業について、どんな仕事に取り組んでいるか。国際クラスの生徒らしく世界で活躍する「この人」がたくさん作成されました。講演で訪れた講師の方にインタビューした「この人」に挑戦する生徒もいます。

富山丸と対馬丸の沈没現場

10年後の友人について書かれた「この人」(2014年5月)

対馬丸事件を検証するため2004年8月に開館した「対馬丸記念館」。 財団法人対馬丸記念会の運営で、犠牲となった学童たちの写真や遺品が展示されていました。

中国では急激な経済成長の一方、投機目的で建設される高層マンションも多く、入居者が少ない「ゴーストタウン」が出現。この問題を取り上げた「新聞ノート」(2年生総合学科「探求入門」の授業で作成)

大学入学前に「切り抜き新聞」でめざす学びを調べる

  • 鷹来校舎で音速滑走体の実験準備をする学生たち(1959年4月29日。小澤教授の研究論文集『音速滑走体』より)
  • NIE学習の取り組みについて語る岡教諭

 1年生の普通科の全13クラスは「新聞切り抜き作品」作りに取り組んでいます。スーパーサイエンスクラスや一般進学クラスでは「科学と人間」、国際クラスなら「世界と私」 などテーマを決め、新聞の切り抜き記事を台紙に張りつけ作品を完成させます。

 東日本大震災が発生した2011年度には震災をテーマに扱った新聞が目立ちました。出来上がった作品の中には、中日新聞社が中部9県の小中高校生を対象にした「新聞切り抜き作品コンクール」で佳作に入選した作品もありました。「3.11 今は」という当時の1年生の入選作には、「粉ミルクにセシウム 外気乾燥で混入か」「先見えぬ 仮設の冬」などの記事に加え、「福島第一原発事故発生からの主な経過」の一覧表も掲載されています。

 「新聞切り抜き作品」は11月には大学推薦入試で合格が決まる3年生たちの、大学入学前の調べ学習にも活用されています。自分が進む学部ではどんな学びが可能なのかなど、関連する記事を切り抜き、新聞に仕上げていきます。「保育を学ぼうとする生徒は、今、保育の分野では何が大きな問題になっているのか、経済学部に進む生徒は、アベノミクスと円安の関係など話題はいくらでもあります」と岡教諭は語ります。

 NIE学習は取り組む教員たちの創意工夫で様々な新聞活用方法や授業スタイルが生まれてきました。生徒たちに自分の気になる365日分の記事を切り抜いては張りつけ、自分のコメントにつけ完成させる「新聞スクラップマラソン」に取り組むクラスもあります。

  附属高校は2014年度から2度目のNIE実践校の指定を受けていますが、岡教諭は「10年間 に様々な活用法(コンテンツ)が詰まった引き出しを整えることができました」と取り組んできたNIE学習10年を振り返ります。

  • 「対馬丸記念館」の犠牲者の遺影。解説文には「これは全犠牲者数1482名中約20%にすぎません」とありました。
    出来上がった新聞切り抜き作品について発表する生徒(1年生普通科の授業で)

◆NIE学習とは
NIEは1930年代にアメリカで始まりました。その後世界中に広がり、日本でも全国の新聞 社が参加する日本新聞協会が1996年にNIE基金を設け、実践校に教材用の新聞を提供するなどして推進。1998年からは新たに設立された日本新聞教育文化財団(新聞財団)が全国の小中学校、高校のNIE事業を応援する形で取り組まれています。2014年度の実践校は、47都道府県568校(うち高校が112校)で、愛知県では名城大学附属高校、南山高校女子部、名古屋市立若宮商業高校が実践校の指定を受けています。

本記事は2015年春発行の「名城大学通信第49号」を一部抜粋したものです。
役職等はその当時のものとなっております。予めご了承ください。

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