特設サイト第39回 漢方処方解説(15)十全大補湯

今回取り上げる漢方処方は、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)です。

桂皮(けいひ)、黄耆(おうぎ)、人参(にんじん)、白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)、当帰(とうき)、川芎(せんきゅう)、芍薬(しゃくやく)、地黄(じおう)の10種の生薬からなる処方です。

処方構成について漢方医学的に見ると、「気」を補い、脾胃(※1)を補う「四君子湯(しくんしとう):人参、白朮、茯苓、甘草」と「血」を補い、血燥を潤す「四物湯(しもつとう):当帰、川芎、芍薬、地黄」からなる八珍湯(はっちんとう)に、さらに「気」を補う黄耆を加え、その上「気」を巡らす桂皮を加えた処方であると言えます。

この「十全」という言葉は、「少しも欠けたところがなく、すべて完全なこと」という意味で、万全なことを指します。そのため、「われわれの身体に必要なものをすべて補う薬」という意味が込められています。
すべての病気に効くということに通じ、病院の名称にも好まれる表現ですから、その字を見たこともあるのではないでしょうか。
以前、漢方処方解説で紹介した補中益気湯(第22回)とともに「補剤(ほざい)(※2)」と呼ばれる漢方薬の代表処方です。

現代医療においては、ともに体力虚弱なものに用いるとされ、病後・病中の体力低下や疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷えなどに用いるとされます。
また、両者ともに骨髄抑制や食欲不振など抗がん剤による副作用軽減のために応用されることもありますが、他方で補中益気湯が感冒など上気道疾患へ応用されるのに対し、十全大補湯は皮膚や粘膜のびらんといったジュクジュクした症状の改善によいとされます。
漢方医の間では、十全大補湯を免疫疾患の体質改善に好んで使用することが多く、西洋医薬品にはない特長がここにも表れています。

手前味噌ですが、私の研究室では、補中益気湯とともに、この十全大補湯を研究対象としており、「免疫疾患の体質改善に有用である」とする理由が少しずつ分かってきています。
若い学生達の情熱と努力により、より多くの知見を社会に還元できればと奮闘する日々です。

  • 十全大補湯
    十全大補湯

(※1)胃腸を中心とする消化吸収系のこと。

(※2)私たちの生命活動に欠かすことのできない「正気(エネルギー)」を補う漢方薬のことで、体力を充実させ、身体のバランスを整えます。

(2017.7.26)

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