特設サイト第22回 漢方処方解説(7)補中益気湯

  • 補中益気湯

厚生労働省医政局が2015年3月に発刊した「薬事工業生産動態統計年表」によりますと、2013年度の医薬品全体の生産金額が約6.9兆円と前年度比1.2%減少した中で、漢方製剤は前年比5.8%増を示し、約1,500億円となっていました。漢方薬のニーズ、あるいはその効果に期待が寄せられている結果でしょうか。
この結果は、漢方製剤として、医療用や一般用エキス製剤、さらには配置薬も含め、520品目の総合なのですが、処方としては補中益気湯(ほちゅうえっきとう)が依然として第一位の生産高を示しております。言わば、漢方処方の中のベストセラーです。

近年、生産高が急上昇しているものの中には、「利水剤(りすいざい)」という漢方に特徴的な処方群に属する「五苓散(ごれいさん)」や機能性デイスペプシア(※1)として知られる胃の不調に用いる「六君子湯(りっくんしとう)」などもありますが、今回は生産高1位の補中益気湯のお話です。

補中益気湯は、1180年生まれの李東垣(りとうえん)により創製されたもので(出典は「内外傷弁惑論」)、人参(にんじん)、白朮(びゃくじゅつ)、黄耆(おうぎ)、当帰(とうき)、陳皮(ちんぴ)、大棗(たいそう)、柴胡(さいこ)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)、升麻(しょうま)という10種類の生薬からなります。
李東垣は、「脾胃(ひい)」、漢方医学でいう消化器官の機能を整えることで、病気の回復や予防、さらには全身機能の正常化ができるとの考え方を提唱しました。補中の「中」とは「お腹」を指し、胃腸の働きをよくすることで、栄養の吸収を促進し、体力を回復させ、気力を生み、元気を出そうということで、その名が付いています。
現代医学的には、生来虚弱で疲れやすく、手足がだるくて、寝汗もある、味がわからない、眼に生気がない、口の中に生唾がたまるなどの症状を目標に用いられます。別名「医王湯(いおうとう)」とも呼ばれ、病中病後の体力回復から虚弱体質の改善、食欲不振、夏やせ、感冒など、また最近では軽症うつにも応用される「補剤(ほざい)(※2)」の代表的漢方薬です

処方の成り立ちを考えると、いろいろな場面に使われる理由がわかりますが、基本的な考え方として、われわれが元気に暮らしていくためには、消化機能がしっかりしていなくてはならないということです。
これは、いつの時代も同じなのではないでしょうか。

(※1)内視鏡で検査しても異常が見つからないのに胃に違和感や痛みなどがある症状。

(※2)私たちの生命活動に欠かすことのできない「正気(エネルギー)」を補う漢方薬のことで、体力を充実させ、身体のバランスを整えます。

(2016.2.23)

  • 情報工学部始動
  • 社会連携センターPLAT
  • MS-26 学びのコミュニティ