特設サイト第16回 熱中症と漢方治療
残暑、お見舞い申し上げます。
立秋も過ぎ、暑さも少し和らいできました。
年々、夏の暑さに拍車がかかっているように思うのですが、ニュースによると、沖縄や鹿児島よりも愛知や大阪の最高気温が高く、これもいわゆるヒートアイランド現象なのかなと驚いています。
連日、TVや新聞で話題となった熱中症患者も少しは発生頻度が減ったようですが、まだまだ油断はできません。適切に環境温度の管理や水分補給を行い、実りの秋へと移り変わる季節を楽しみたいものです。
さて、今回はその熱中症が話題です。
熱中症とは、熱に中る(あたる)という意味で、暑熱環境によって体温の調節機能が破綻し、体内の水分や電解質のバランスが崩れて生じる障害を総称するもので、細かくは熱失神、熱疲労、熱けいれん、熱射病などの病型に分けられます。
熱失神は、炎天下にじっと立っていたり、立ちあがったりした拍子に、皮膚の血管拡張と下肢への血液貯留のために血圧が下がり、脳への血流が低下して起きる一種の脳貧血です。涼しい場所で足を高くして休み、水分補給をすれば、すぐに楽になると言われています。
また、多くの人が経験するのは、熱疲労でしょう。発汗による脱水と皮膚の血管拡張による循環不全のため、脱力感やだるさ、めまいや頭痛、吐き気などの症状がみられます。涼しい場所で同じく足元を高くして寝かせ、スポーツドリンクなどで水分とともに塩分を補給することが必要です。
熱けいれんは運動中などに生じやすいと思いますが、大量の汗をかいて水分と塩分を失ったところに水分しか補給しなかったことで、血液中の塩分濃度が低下し、筋肉に痛みを伴う「こむら返り」のような痙攣(けいれん)が生じるものです。少し濃い目の塩水などが効果ありです。
最も危険性の高いのが熱射病で、体温が40℃以上に上昇し、体温調節ができなくなり、意識障害まで生じます。ともすれば、脳だけでなく肝臓や腎臓、肺、心臓などの多臓器障害を併発し、取り返しのつかない状態にまでなってしまいます。体温を下げるために、太い血管のある頸(くび)や腋(わき)の下、脚の付け根にアイスパックをあてるなどをして、一刻も早く病院へと搬送しなければなりません。
様子を見て、それぞれ適切な判断と処置を要します。
漢方医学においても、自然界の気と呼ばれるエネルギー(※1)が、ときとして病気を引き起こすと考えています。自然界に存在する「風・寒・暑・湿・燥・火(ふう・かん・しょ・しつ・そう・か)」の6つの「気(六気(りっき))」が私たちに過剰に作用したとき、それぞれが「外邪」となって、病気の原因、「六淫(りくいん)」となると考えるのです。そして、この中に「暑」があり、「暑邪」により熱中症や夏負け、夏バテなどの症状が出ると考えています。
汗の出過ぎによる体液の消耗については、白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)が用いられることから、熱中症への応用もできるのではないかと考えられています。また、清暑益気湯(せいしょえっきとう)という、暑熱により、気や津液(しんえき)(※2)ともに失ってしまった状態に対応する処方もあります。さらに中医学には、宋(960~1279年)の時代の処方集に記されている「至宝丹(しほうたん)」と呼ばれる日射病や熱射病も対象とした処方があります。
これらの処方の熱中症への有効性については、残念ながら科学的な証明はまだなされておりません。地球温暖化の影響もあり、ますます暑くなる日本の夏を考えますと、こういった漢方処方の有効性もきちんと確かめておかないといけません。
(※1)元気、気力、気合などの気で、目に見えない生命エネルギーのこと。
(※2)体内にある「血」以外の正常な液体のことで、唾液・胃液・涙や現代医学でいうリンパ液なども「津液」に含まれます。体の乾きを潤し、関節の動きをスムーズにします。
(2015.8.20)