特設サイト第19回 学生実習と漢方製剤

11月も半ばを過ぎましたが、なかなか寒くはならず、穏やかな日々が続きます。

さて、今年も薬学部2年生の化学系応用実習にて、漢方製剤の紫雲膏(しうんこう)を作っております。ゴマ油の香ばしい匂いが実習棟に漂い、「ああ、もう11月も終わりか」という薬学部ならではの風物詩になっているのではないでしょうか。

紫雲膏は、中国の明代に外科医・陳実功(ちんじつこう、1555~1636年)が著した「外科正宗(げかせいそう)」(四巻、1617年)に収載されている「潤肌膏(じゅんきこう)」をもとに、江戸時代の医師・華岡青洲(はなおかせいしゅう)が創案した軟膏剤です。
古くから、皮膚疾患や外科的疾患の治療薬として重用されてきました。やけどや痔の痛み、しもやけに用いて局所の血液循環をよくし、うっ血をとる効果があるとされていますし、ひび・あかぎれや切り傷・擦り傷などの外傷にもよく効きます。また、近年では、アトピー性皮膚炎などにも応用されることがあります。

熱して水分を飛ばしたゴマ油に、軟膏の基材ともなるミツロウを入れ、また人の肌によく馴染むようにと華岡青洲が工夫したとされる豚脂(とんし=ラード)を加え、その中に当帰(とうき)と紫根(しこん)を順次加えて、それぞれの薬効成分を抽出して作ります。当帰はセリ科のオオブカトウキの根であり、紫根はムラサキ科のムラサキの根です。この二つの生薬を焦がさないように、ひと煮立ち、ふた煮立ちさせてからガーゼで濾し、ゆっくりと冷ましながら固めると軟膏の完成です。言い忘れましたが、ゴマ油やミツロウ、豚脂など材料のすべてが生薬です。

紫雲膏の作製過程

ゴマ油を加熱中

ゴマ油を加熱中

材料を入れて抽出中

材料を入れて抽出中

冷やし固めて、もうすぐ完成

冷やし固めて、もうすぐ完成

漢方とオランダ医学(外科)の折衷医として、通仙散(つうせんさん)という全身麻酔薬を開発し、世界で初めて全身麻酔による乳がんの切除を行ったことで知られる華岡青洲ですが、この紫雲膏をはじめ、いくつかの軟膏を工夫創製したことでも有名です。

切り傷ややけどには、ことのほかよく効きますから、重宝します。
あちらこちらの薬学部でも生薬学の実習で作っていますので、薬剤師さんには馴染みのある漢方薬の一つではないでしょうか。
医療用の漢方製剤にも唯一含まれる外用剤ですが、ドラッグストアなどでも販売されていますので、是非お試しを。

  • 紫雲膏の材料(上左:ミツロウ、上右:豚脂、下左:当帰、下右:紫根)
    紫雲膏の材料(上左:ミツロウ、上右:豚脂、下左:当帰、下右:紫根)

(2015.11.26)

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