特設サイト第58回 漢方処方解説(24)苓桂朮甘湯

今回取り上げる処方は、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)です。
主にめまいに用いる処方の一つとして知られていますが、古典的には水毒(すいどく)と気逆(きぎゃく)によって生じるめまいや立ちくらみ、のぼせ、動悸などに用います。
漢方医学では、この処方の適応となる状態を、消化器系の機能が「冷え」によってうまく働かず、「水」の吸収が悪くなってしまうため、胃に水が溜まる傾向にあり、さらに気の巡りも悪くなっている状態と考えています。気は、私たちの身体では「上から下へ」流れているのが正しい向きとされますが、ふわふわと「下から上へ」と逆行すると「気逆」と呼ばれる状態となり、のぼせやふらつきを生むと考えているのです。

苓桂朮甘湯の構成生薬は、茯苓(ぶくりょう)、桂皮(けいひ)、白朮(びゃくじゅつ)、甘草(かんぞう)で、処方名自体が構成生薬の名前の一文字ずつ取ったものとなっていますから、覚えやすいですね。白朮と甘草で、脾胃の働きを高め、茯苓と白朮で余分な水を捌き(代謝を促進し)ます。また、桂皮で気の巡りを改善し、とくに甘草との組み合わせにより、気の流れを上から下にと引き下げると言われています。こうした生薬の作用は、なかなか現代科学的には証明し難いものですが、実際にその効果を体感すると、とてもよく理解ができます。

  • 苓桂朮甘湯
    苓桂朮甘湯

めまいに対する漢方処方は、これ以外にもいくつかあり、鑑別が必要となってきます。
貧血気味でめまいやふらつきがある場合には当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)がいい場合がありますし、普段から胃腸の調子がすぐれず、常習性のめまいがある場合には半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)を使ってみるのもよいかと思います。また、身体の冷えが強く、ふわふわしためまいの場合には真武湯(しんぶとう)がいい場合があります。

また、6月など梅雨の時期に、ふらつきやめまい、気持ち悪さや頭痛などを感じるときにも苓桂朮甘湯は有効である場合があります。天気の悪くなるときの頭痛に、五苓散(ごれいさん)を利用するのと同じような理由です。

本処方は、日本薬局方に漢方エキスが収載され始めた最初の6処方のうちの一つです。
ドラッグストアなどにも置かれていますので、薬剤師さんや登録販売者の方々に相談して、上手に活用していただければと思います。

(2019年4月24日)

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