特設サイト第66回 漢方処方解説(31)黄連解毒湯
今回取り上げる処方は、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)です。
これまでに、本コラムで名前だけは出ていましたが(第32回と第49回)、ご紹介してはいなかった処方です。
本処方は、唐代(618 -907年)の8世紀に世に出された「外台秘要方(げだいひようほう)」が出典とされていますが、原典は7世紀に著された「崔氏方(さいしほう)」です。ただし、「崔氏方」が早くに散逸して今には伝わっていないことから、その引用文を唯一保存している「外台秘要方」を出典としています。
本処方は、黄連(おうれん)、黄柏(おうばく)、黄芩(おうごん)、山梔子(さんしし)の4つの生薬からなる処方で、原典には以下のような記述があります。
すなわち、「劉車という者が流行性の病気にかかって3日、発汗することで大体治ったものの、飲酒したがために、また激しく苦しみだした。悶え苦しみ、吐き気が強く、口内は乾燥し、うめき声をあげて譫言(うわごと)を言い、じっと寝ていることもできない。そこで、私(崔氏)は考えるところがあって黄連解毒湯を作り、飲ませたところ、効果があった。それから、この処方を高熱があり、うめき、譫言を言って眠らないといった点を目標に使う。必ずしも飲酒により悪化したものには限らない」と。
本処方を構成する生薬はすべて清熱薬(熱や熱感をとり、炎症を鎮める生薬)であるので、高熱を出して意識障害を起こしている状態に効果があったということでしょう。
黄連解毒湯の使用目標となる症状には、顔面充血、のぼせ感、興奮、不安や焦燥感、動悸、不眠、めまい、頭痛、耳鳴りなどがあり、その一方で胸焼けや口内炎、鼻出血、自出血などにも用いられ、さらにじんましんや皮膚のかゆみなどにも用いられるなど、かなり広く使うことができます。身体に熱が入り、いろいろな臓腑(内臓)や体表面に熱が及んで生じた症状を冷やす薬と考えればいいと思います。
そのため、普段胃腸が弱い方が服用すると、冷やしすぎて胃が痛むこともあり、お勧めしません。また、熱をとることを目的とするため、冷やして飲んだ方がよいとも言われます。ちょっと興味深いですよね?
12月や1月は、忘年会や新年会と、なにかとお酒を頂く機会が多いと思います。 お酒、つまりアルコールは温める力が強く、とくに飲み過ぎは胃をはじめとする消化器系に熱を生じさせます。胃に熱があれば、胃炎ともなり、本来の「上から下へと食べ物を送る」役割が低下し、逆流して悪心・嘔吐につながります。腸に熱があれば、腸の水分を押し出すことになって下痢するというように、飲み過ぎたときに経験することも東洋医学的な考え方で理解できます。二日酔いにも効果的で、利水剤の五苓散とともに配合された医薬品がドラッグストアにもあります。もしものときは、薬剤師さんにご相談ください。
(2019年12月26日)